「つぶやき」と新聞を融合させる試み

今日、出先でたまたま「RT」と左上に大きく書かれたタブロイド版の新聞のようなものを見かけて、これは何だろうと手に取りました。よく見てみたら、毎日新聞が明日(6/1)創刊する「毎日RT」の見本版(5/30版)でした。

「毎日RT」は、毎日新聞のサイトに掲載された記事と、それに関連するツイッターのつぶやきを融合・再構成して紙面に落とした新しいタイプの新聞です。公式サイト(http://mainichi.jp/rt/)での説明を一部引用します。

「MAINICHI RT」は毎日新聞社がネットユーザーと作る新たな媒体です。過去24時間(休刊日の翌日は過去48時間)に毎日jpで読まれた記事をピックアップ。ツイッター(@mainichiRT)のコメントとともに掲載し、リアルタイムのコミュニケーションを目指します。毎日jpの検索ランキングやツイッターで話題になったトピッスも紹介します。転載してもよいつぶやきはハッシュタグ#mainichirtをつけてお願いします。

毎日新聞のプレスリリース(こちら)などによると、東京・神奈川・千葉・埼玉を対象にタブロイド版24ページで週6回発行し、月額1980円。当初は5万部の発行予定とのことです。

「毎日RT」のサイトにあるサンプルページ(こちら)を見ていただけると大体のイメージはつかめるかと思いますが、伝統的マスメディアの中枢に位置する全国紙にこんなことをさせるのかと、ツイッターインパクトの大きさを改めて感じたというのが第一印象でした。でも、と同時に、あくまで紙という媒体にこだわりながら新聞社がソーシャルメディアを取り込もうとする試みとして、こういう形もありなのかなとも思いました*1。一方で、これを有料展開するのはなかなか厳しいかもしれないなという気もしました。

一番興味深く感じたのは、読者からのつぶやきという感想や批評を加えることによって「最新ではないニュース」にも価値を持たせようという取り組みに新聞社自体が本格的に乗り出した、ということです。”新聞は1日た経てばただの紙”なんてことが昔から言われてきていますが、「毎日RT」の試みは、アーカイブとしての記事利用(データベースなど)やウェブサイトに記事を載せて広告収入を得るといったことよりもずっと積極的な「過去記事」(といっても直近の過去ですが)再利用の試みにもなり得るものだと思います。

自分のことを考えても、最近は新聞に期待することが「最新のニュースを得る」ことから「面白い企画記事やインタビューを読む」ことにシフトしているような気がします。時間がないときなど、数日間分をまとめて後で読むということも珍しくありません。企画記事には即時性があまり問題にならないものも多くあるので、数日後に読んでも面白いものは面白いのです。自分にとっては、関心分野を掘り下げた特集や、それまで知らなかった・関心がなかった様々な分野や人に興味を抱かせてくれるような企画に出会ったりすることが、新聞の購読を継続している最大の理由です。だとすると、必ずしも「紙面に載せられる最新のニュース」が中心ではない新聞というのがあっても良いのかもしれません*2

ただ一方で、そうした「新聞」が多くの人からお金を払ってもらえるほどのものとなるためには、余程の工夫が必要となるでしょう。例えばツイッターでのつぶやきによる論説や批評になるほどと思うこともしばしばあるのは確かですが、それはフォローする人をきちんと選んでいれば新聞の編集機能に頼らずともある程度は自動的に自分のところに流れてくるものだったりします。「毎日RT」は紙面を見る限り比較的若い年代を対象にしているように感じられましたが、そうした人々を唸らせる程の情報収集力・整理力でツイッターのつぶやきを紙面と融合させなければ、これを大きな「売り」にすることはできません。またサンプル版を読んだ限りでの印象ですが、「毎日RT」は紙面が限られているために文章量も全体的に少なく、企画やインタビューを大々的に展開するのは難しそうだなという感じも受けました*3

正直なところを言うと、ツイッターでのつぶやきを利用した過去記事の再構成・再利用などは、週に1回、土曜か日曜に普通の新聞の朝刊の特集面などで企画としてまとめてやってくれればすごく面白そうなのになという気がします。あるいは、ロンドンの地下鉄圏を中心に配布されている「Metro」のような無料紙であれば、こうした取り組みは相性が良いかもしれないな、とも。そうではなく、つぶやきとの連携を独立させたひとつのメディアとして、しかも紙媒体の有料新聞として展開するのは、なかなかハードルの高いことだと感じます。でも、新聞とソーシャルメディアを融合させようというせっかくの新たな試み、何とかして上手く行く道筋を見つけてほしいなと思います。

<追記 6/1>
今朝の「鳩山首相 辞意表明」のニュースを見て、毎日RTはどんな対応をしてるんだろうかと確認してみたら、毎日新聞の号外(PDF)へのリンク(こちら)がつぶやかれていたりしました。こういう使い方っていいなと感じました。

*1:ただ、僕が読んだ5/30版のサンプルでは、実際にツイッターでのつぶやきが掲載されていたのは24ページ中4ページのみ。まだ創刊前でハッシュタグをつけられたつぶやきが少ないといった事情もあるのでしょうが、連携のさせ方は発展の余地がありそうです。

*2:それを「新聞」と呼ぶべきなのかどうかは別として。

*3:テリー伊東のコラムなどは載っていましたが。