始まったHuluの有料版「Hulu Plus」

アメリカでHuluのサブスクリプション式有料サービス「Hulu Plus」のベータ版が立ちあがってから10日あまりが経ちました。レビューなども出始めてきたので、そのあたりも含めて少しまとめてみます。

Huluによる発表(こちら)によると、「Hulu Plus」の概要は以下のようなものです。
・月額の利用料 9.99ドル。
・Huluで提供しているテレビ番組のほとんどについて、最新シーズンの全てのエピソードを視聴できる(通常版Huluの場合は、直近の5エピソード程度のみ)。
・X-FILE, Law and Order, Ally Mcbealといった過去の作品の全シーズンや、継続中のドラマGrey’s AnatomyやDesperate Housewivesなどのこれまでの全エピソードを視聴できる。
iPadiPhone(3GS, 4)でも見ることができる(通常版HuluはPC上でのみ試聴可)。
・登録は、申し込みをした上での招待制。
・有料だが広告もつく。

Huluが有料版のサービスを準備しているというのは何カ月も前から言われてきていたことなので、あまり驚きの声というのは見受けられません。むしろこの件を伝えるニュースやブログ記事などを読むと、「準備に意外と時間がかかったのね」という感想の方が多い気がします。とはいえ、これまでずっと無料でテレビ番組などの"プレミアムコンテンツ"をネット配信してきたHuluが正式に有料サービスを立ち上げたというのは、動画のネット配信ビジネスにおける大きな転換点なのではないかと感じられます。

当初一部で噂されていた、「CBSなど新しいパートナーが加わるのではないか」という見通しが外れたことを物足りないとする意見もありましたが、個人的には、今回の動きが意味しているのは「ネット配信ビジネスにおける各社の境界線が大きく崩れて来ている」ということなのではないかと思います。以前は、プレミアムコンテンツの無料ネット配信はネット上におけるテレビの代替(広告費をもとに無料で番組を提供)であり、iTunesなどのようなネット上での有料販売はDVDの代替だと言われていました。しかし、そうした区別がなくなってきているのです。

Hulu Plusのレビューを載せたPaid Contentの記事(こちら)にも、以下のような記述があります。

もし主に映画に関心を持っているならば、ひと月あたり9ドルで利用できるNetflixの基本プランの方が役に立つ。でも最新のテレビ番組が大事で、特にABCとNBC,FOX*1のプライムタイムの番組に興味があり、時々別の番組も見たいというのであれば、Hulu Plusに登録していくつもの番組を見るか、番組ごとにiTunesAmazonでシーズン・パス*2を購入することになるだろう。

Huluが有料サービスに乗り出したことによるライバル関係の激化を上手く表した文章だと思います。Netflixは映画中心のサービスですが、通常版Huluで現在100本以上の映画を提供していますので、今後この分野で有料サービスを強化することも十分に考えられます。実際、有料版も合わせたHuluの動向がNetflixの「DVDからウェブ・ストリーミングへのスムーズな転換」を妨げる要因になるかもしれない、というCitiの分析を、Silicon Alley Insiderが記事で紹介したりもしています(こちら)。

このように見てくると、動画のネット配信ビジネスの動向は、この1年ほどの間に起きた弱者の淘汰から大きく姿を変えてきているのがわかります。恐らくこれからは、動画の収益化に本腰を入れて来ているYoutubeも含めた、強者同士による、それぞれの縄張りが重なり合う本格的な競争が行われていくのでしょう。その中で各社がどこを自らの強みとするのか、そしてそれがユーザーにどのように受け入れられるのか、といったあたりが今後の見どころになってきそうです。

*1:注:いずれもHuluの親会社。

*2:その番組の1シーズンのエピソード全てがパッケージになったもの。