ネットと「縦方向」のつながり・再考

先月行われたTEDxTokyoに、運営スタッフの一員として参加しました。概要や当日の模様はGreenzJapan Timesの記事(英語)でも紹介されていますが、スタッフとして参加しても非常に刺激的なイベントでした。1年ほど前にこのブログのエントリ(こちら)で「SNSでは縦方向のつながりが生まれにくい」といったことを書いたのですが、今回の体験を通じてその糸口になり得るものがぼんやりと感じられた気がします。そのことについて書こうと思います。

1スタッフとしての個人的な印象ですが、TEDxTokyoをイベントとして形作る背景にあったのは、「限られた回数&時間で集中して行われるリアルな場での準備」と「ウェブ上で行き来する膨大なやり取り」の集積だったと感じます。全部で百数十人いたスタッフは全てボランティア。学生の人もいましたが、多くは他の仕事を持ちつつ関わっているスタッフです。お互いに顔を合わせる時間はどうしても限られますから、メール、SkypeGoogle DocsDropbox、その他さまざまなウェブ上の連絡手段や情報共有ツールを使って作業が進められました。そしてイベントの前日・当日辺りになると、各々が会場に集まって準備を行いました。事前にやりとりはしていても、対面するのは会場準備に入ってからが初めて、という人も少なからずいたはずです。

そうした過程を経る中で、興味深く感じた点が2つあります。まず上記のような形でウェブ上とリアルの場でともに顔を合わせた人たちの間で、イベント後にFacebookなどSNSを通じてどんどんつながりが広がっていったことです。イベントが終わると次はいつ会うのかもわかりませんから、関係を保っていくためにはSNS上でのつながりは大きな意味を持ちます*1。ただ、この場合の「ウェブをベースにしつつリアルなやり取りも行う」という感覚は、いわゆるオフ会のようなものとは少し感触が違っている気がします*2。例えばIT用語辞典ではオフ会を「主に談笑など、インフォーマルな催しとして行われる傾向が強い。」と説明しているのに対し(こちら)、今回のような場合はイベントを実施・成功させるために参加するという、よりミッション・ベースで自律性の高い集団になります。また、外に向けて発信しようというイベントですから、集団の性質としても、内輪の親睦を深めるというよりも外に対するオープン性が高いものになっていたという点も特徴だったと言えます。

もうひとつ興味深かったのが、スタッフ同士のやり取りの中で年代を超えた「縦方向」のつながりもいくらか生まれたのではないだろうかと感じられる点です。スタッフには見た感じ20〜30代の人が多かったのは確かですが、運営にはそれ以外の年代の人も携わっています。親子ほどとはいかなくても、10歳以上年の離れた人とのつながりは、「縦方向」と言ってよいのではないでしょうか。年長者も若者も、フラットな関係でありながら互いの経験や知識を持ち寄り良い方向を探っていくというスタイルは、心地よいものでした。これを可能にしたのも、目的志向型のコミュニティだったという点とオープン性の高さ、参加者の自律性の高さだったのではないかと思います。

どの程度一般化できるのかはわかりませんが、これらの点から考えると、「目的志向型でオープン性と参加者の自律性の高いコミュニティが、ネットとリアルのやり取りをともに重ねることで交流を深めていくと、横方向と同時に縦方向のつながりも生まれやすい。そのつながりを広げ持続させていく上で、SNSは大きな役割を果たし得る。」という推測ができるかもしれません。今回自分が材料としたのはあくまでTEDxTokyoという一つのイベントだけですが、例えば震災で被災された方たちを支援しようというNPOや団体などの集まりでも、程度の差や方向性の違いはあれ、少なからず同じようなことが起きているのではないかと思います。だとすると、ネット上での「縦方向」のつながりは、これから徐々に、あるいはこうしたコミュニティに参加する人々の間では急速に、広がっていくことになるのかもしれません。

*1:こういうつながりを作っていく上で、実名が原則のFacebookやLinkedinは、相手を探し出したり人となりを大まかにつかんだりするのにとても役立ちます。信頼感・安心感があるのです。

*2:良い・悪いの話ではありません。