マーケティング・ツールとしてのジオメディア

前回もFourSquareなど位置情報系サービスのことを書きましたが、こうしたジオメディアに対する注目が最近高まってきているのは、それがマーケティング・ツールとしての可能性と娯楽性の高さを兼ね備えていることに大きな理由があるという気がします。人の集まるところに企業が目を留めるのは当然ですが、たしかにジオメディアは従来のウェブ上の無料サービスとは少し違った要素も持っているように感じるのです。2回に分けて、そんなことを少し書いてみたいと思います。

今回はビジネスから見た側面についてです。2週間ほど前、FourSquareはユーザーの「チェックイン情報」*1を数値化した分析ツールを900ほどの企業やお店(businesses)に提供すると発表しました(New York Timesの記事などを参照)。記事に載っている分析画面の写真を見るとわかりますが、その場所への総合的なチェックインの回数やユニークユーザー数に加え、どのユーザーがいつチェックインしたのか、これまで何度チェックインしたのかといった情報も見られるようになっています。

これは、FourSquareマーケティングやプロモーションに使いたいビジネス、特にリアルな店舗に顧客を呼び込みたい飲食や小売業にとっては大きな意味を持つツールなのではないかと思います。これまでもmayorになった人に飲食の割引や商品券を渡すといった手法は取られてきましたが(具体的な事例はこちらこちらを参照)、この分析ツールの開始によりビジネス側はより戦略的に、あるいはピンポイントにPRを行えるようになるからです。

アメリカでStarbucksFourSquareをプロモーションに使い始めたと報じる別のNYTの記事(こちら)にも興味深いことが書かれていました。ユーザーがTwitterFacebookでスタバのことに触れたとしても、店側にとっては基本的にはそれが誰だかわからない"匿名の顧客"であるのに対し、FourSquareではより深いつながりが生まれる可能性があるという趣旨のことです。スタバの場合は5つの店舗にチェックインするとFourSquare上で「バリスタ・バッジ」がもらえるという通常のPRに加えて、特別イベントへの招待といったことも検討していくそうです。

スタバでブランドやコンテンツを担当するVice Presidentの、「デジタルと現実世界の交わるところが面白くなる」という記事中の言葉が印象に残りました。彼が着目するように、ビジネスと直接につながりやすい形でネットとリアルの交わりを作り出せるところがジオメディアの強みなのです。つまりFourSquareなどのジオメディアは、ユーザーを「ネットの世界では関わりを持っているけれどリアルの世界では"匿名の顧客"である存在」から「ネットでもリアルでもお店と関わりを持つ存在」に変えて互いのつながりを深める上で大きな力を発揮し得るのです。

もちろんこれはあくまで可能性の話ですから、実際にそれを使ってどのような方法でマーケティングやプロモーションを行っていくのかはそれぞれの企業や店舗が考えなければなりませんし、そうして実行された施策が成功するかどうかは別の話です。でもビジネス面から見た時に、上記のポイントがFacebookTwitterなど既存のウェブサービスと比べたFourSquareの差別化と強みの要因になっているのは確かでしょう。また、スタバのような事例がある一方で、FourSquareをプロモーションに使っている事例の多くが恐らくはローカルで小規模なビジネス(カフェやバー、ピザ屋など)であるという点*2もひとつのポイントです。GoogleAdWordsで広告の間口をスモールビジネスにまで広げたのとは違うアプローチで、FourSquareが地域の小さなお店や企業を活気づけるツールとして成長していけば面白いなと感じます。

*1:お店などリアルな場所に出かけた際に、iPhoneなどでそこに"チェックイン"するのがFourSquareの主な利用法です。チェックインの回数が多ければ、その場所の"市長" (mayor)になったりします。

*2:FourSquareのウェブサイトにあるビジネスを対象としたページ(こちら)にある活用事例の紹介をみるとそれが強く感じられます。