ジオメディアとリアル社会でのつながり

最近、位置情報を利用したジオメディアと呼ばれるサービスが大きな注目を集めています(はてなブックマークニュースの記事などを参照)。アメリカではFourSquareというサービスが人気を集めてきましたが*1、最近は競争が激しくなってきています。

最近のNew York Timesには「Facebookも来月からジオロケーション分野に参入する」とする報道が載り、一方でFourSquareのCEO・Dennis Crowleyは「Facebookは大きくなりすぎて、実生活で親しくない人も大量に友人登録されているから、リアルな場所に出かけて"チェックイン"するFourSquareのようにはなれない」なんて言っていたりして(Silicon Alley Insiderの記事より)、これからの展開が非常に興味深いところです。

New York Times(2010/3/9), "Facebook Will Allow Users to Share Location"

・Silicon Alley Insider(2010/3/10), "Facebook Isn't For Real Life Friends Anymore, Says Foursquare's Dennis Crowley"

こうしたジオロケーション系のサービスが、スマートフォンの普及とも相まってこれからますます浸透していくだろうというのはまず間違いないところでしょう。その中で、位置情報サービスはリアルでのつながりと深く結びついているとするDennis Crowleyの指摘は重要なものです。位置情報サービスはその性質上リアルの世界と強い関わりを持っていますが、Crowleyが言っていることは、ただ単に個人レベルでネットとリアルをつなぐだけでなく、リアル社会における実際の人々のつながりに目をやることが大切だと言っているからです。Silicon Alley Insiderから彼の発言を引用します。

Facebookは自分の友達についてのサービスだったが、今はもう全ての人が友達になってしまっている。(中略)[FourSquareは]一緒に場所にcheck-inしたい人は誰かということとより強く結びついている。Facebookは自分の状況をアップデートしたり写真を共有したりするには良い場所だが、人々がどこを訪れているのかという記録を残すための場所ではない。*2


リアルとの関係ということでいうと、Google Mapsを利用してすでにリアルと結びついているサービスを取りこんでいくということがひとつの方向性として考えられるかもしれません。Google Mapsを利用した面白い試みというのはすでにいろいろと行われています。そこに位置情報やネットワーキングなどの要素を加えることで、さらにユーザーを惹きつけることのできるサービスができあがるのではないかと感じられます。

例えば、マスターカードはCMにも出てくる「priceless」をキーワードにブランディングを進めていますが、英語のウェブサイト上で,ユーザーが自分のお気に入りの店や自分にとって「プライスレス」な場所をGoogle Mapsをベースにした地図上に投稿できる「Priceless Pick」というサービスを行っています。こちらです。日本の場所には対応していないようなので、もし日本の地図が出てくるようであれば、場所検索の窓にNew YorkとかLos Angeles、あるいはアメリカのジップコードなどを入れるとどんな感じで使われているのかがわかると思います。

書いてあるのはFourSquareとかYelpにあるのとあまり変わらないひと言コメントがほとんどです。でも、地図を斜め上から見下ろせる「3Dモード」のせいか、FourSquare上で地図を見るよりずっと広い範囲を眺められるからか、あるいはYelpとは違ってショッピングや飲食に限らない場所の紹介も含まれているからか*3、印象はFourSquareともYelpとも大分と違います。Priceless Pickでは、あまり強く商売っ気を感じることなしに*4、地図をベースにしたユーザー参加型の街紹介サイトという趣きで楽しむことができるのです。

また、Google Mapsの機能として近年加えられた、著名人のお気に入りの場所を紹介する「Favorite Places」(こちら)なども、FourSquare的な場所探しやゲームの要素と組み合わせたら面白いのではないかと感じます。例えばここには世界的なチェロ奏者であるヨー・ヨー・マも参加しています(かれのお気に入り地図はこちら)、スタバから劇場からレストランまで、ボストンで彼が好きな場所がコメント付きで紹介されているというのは、熱心なファンに限らず気になるものではないでしょうか。

そして、上に挙げたようなサービスは、必ずしもスマートフォンで利用しなくてもよいのではないかという気がします。位置情報を使う以上携帯できる端末は必要ですが、例えばFourSquareの楽しみ方のひとつとして、iPadのような大きめのスクリーンを持つ端末で、「Priceless Pick」のような閲覧性の高い地図を見ながら、友人とわいわい店や場所を探してcheck-inする、というのはありだと思うのです。リアルなつながりを重視した位置情報サービスという点で、このエントリの前半で紹介したFourSquareのCEOの言葉とも重なる部分です。このように、既存のコンテンツも取り込みながらユーザーに新しい楽しみ方や新しい友人とのコミュニケーションの取り方を提案できれば、競争が激化するジオメディアの中でも独自の強みを発揮していくことになるのではないでしょうか。

*1:FourSquareについて詳しくは、「湯川鶴章のIT潮流」にあるエントリなどを参照。

*2:原文は以下の通り。"Facebook used to be who your friends are, now it's everyone. (中略)[Foursquare] is more tightly curated to who you want to have as your check-in friends. Facebook is good place for status updates and sharing photos, not to keep tabs on where people are going."

*3:緑やオレンジの風船が主にそう。例えばLos Angeles Public Libraryの紹介コメントには「This is a very impressive library. It is huge, like being in a subway station.」というコメントがつけられていて、そんなのを見るだけで行ってみたくなります

*4:とは言っても載っている場所のほとんどが何らかのお店ですが。