コンテンツとコミュニティ 2 〜ストーリーの役割
2か月ほど前に「コンテンツとコミュニティ」というエントリを書いてから(こちら)、この両者の関係が気になっていたのですが、最近読んだ須田和博さんの『使ってもらえる広告〜「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション』という本で気になるひと言を見つけて、また少しそんなことを考えてみようかなと思いました。
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簡単に本の紹介をすると、これは博報堂で働く広告のプロが、今の時代にユーザーに訴えかけることのできる広告のスタイルとは何かということを考えて書いた本です。その結論は、本のタイトルにもなっている「使える広告」、つまり「広告は『使ってもらえるサービス』になるべし」というものでした。著者は、UNIQLOCKやミクシィ年賀状などの例を挙げながら、広告は表現の力でメッセージを伝えるよりもユーザーの役に立つサービスを展開してコミュニケーションを図る方向にシフトしていくべきだ、と主張しています。
こうした考え方は一理あります。「使える広告」(本中では「ブランデッド・ユーティリティ」とも呼ばれています)は、使い勝手のある分、プロダクト・プレイスメントやブランデッド・エンターテインメント(言葉の説明は日経IT PROのサイトなどを参照)よりも好感を持たれやすいという面はあるでしょう。一方で、このような広告が増えたとしても、実際にユーザーのツボを押さえて定期的に「使ってもらえる」ようになるウェブ・サービスの数というのは決してそれと同じペースでは増えないだろうし、少なくとも今の時点ではユーザーの広がりに限界があるようにも感じます*1。むしろ、「面白いことをする会社だな」といった風にブランド・イメージを高めるとか、そんな方向に有効な手法なのかもしれません。
これまでにあまりない広告論が展開されている本で興味深く読んだのですが、実は僕が一番気になったのは、最終の第6章で紹介されていた、ガンダムの富野由悠季監督の言葉でした。本のテーマとはズレているかもしれませんが、このエントリはここからが本題です。
富野さんはこんなことを言っていました。
あらゆるコミュニティの核には、必ずストーリーがあります。ストーリーの働きとは、人を集めてコミュニティを形成することです。
ストーリー(物語)。なるほど、と思いました。コンテンツとコミュニティをつなぐ鍵として機能し得るのがストーリーなのかもしれないと感じたからです。
小説でもマンガでも映画でも、コンテンツがストーリーを持っているというのはわかりやすい話です。冷静に考えてみれば、コミュニティがストーリーを持つというのも自然なことなのかもしれません。コミュニティは、共通のテーマや対象に関心を持つ人々が集まって話を盛り上げ、楽しみ合うという側面を持つからです。でも、自分の中ではこれまでコミュニティとストーリーを結びつけて考えたことはあまりありませんでした。
ただ、富野さんが言うように、ストーリーの働きがコミュニティを形成することにあるのであれば、コンテンツの持つストーリーが人々を集めてコミュニティを形成するとも考えることができます。そして恐らく、「元々のコンテンツが持つストーリーの良さ」に加えて、それに魅力を感じて集まって来た人々がどれほど自分たち自身でそのストーリーを発展させていくことができるかという、「懐の深さ」あるいは「柔軟性」といったものが合わさったものがそのコンテンツの持つ総合的なパワーになるのです。
ここで考えなくてはいけないのは、テクノロジーが前者と後者のストーリーに与えている影響です。コンテンツ自体が持つストーリーの良さというのは、その時々のトレンドはあるにしても、時代やテクノロジーによってそうそうレベルが変わるものではありません。一方で、読者や視聴者といったユーザーたちがストーリーを共有・発展させていくためのインフラ(SNSなど)が飛躍的に進化しているため、コミュニティでストーリーを発展させる余地はこの数年で大幅に拡大しています。コンテンツビジネスにおいてもコミュニティの影響力が増しているということの理由は、このあたりにある気がします。例えば『アバター』の例でいえば、この映画の映像のすごさを口にする人はたくさんいますが、物語が優れていたという感想はほとんど聞きません。でも、脚本という意味では大したことがなかったとしても、やはりこの映画は入念に作り込まれた「世界観」、つまり大きな意味でのストーリーを提示しそこに見る人を惹き込むことに成功していたのだと思います。それが3Dの映像美とあいまって観客たちの間で話題になり、さまざまなレベルのコミュニティに浸透してそこでさらにストーリーを生み出していったのでしょう。このように、ただの直線的な筋書きを提供するコンテンツよりも、読み手や観客を巻き込める”世界観”と言えるほどのストーリーを持ったコンテンツの方がどんどん成長していける、という傾向が今後はますます強まっていくのかもしれません。
*1:「通常のテレビCMなどの制作費と同程度はかかった」(日経IT PLUSの記事より)とされるUNIQLOCKが広告としてもテレビと同程度の効果を上げたのかは未知数です。