コンテンツとコミュニティ

年末年始に気になった記事とスライドを1件ずつ紹介します。

まずはNew York Times 12/27付けの"Adding Fees and Fences on Media Sites"という記事です。2009年を振り返ってネット上のニュース記事や雑誌、書籍、動画などを有料化しようとする大手メディアの試みが始まっていることを示しつつ、それはプレミア感のある一部エンターテインメント・コンテンツや「いつでも、どこでも、どんなデバイスでも利用できる」といったアクセスの利便性など、明らかな価値がなければ簡単に成立するものではないという専門家の意見も紹介しています。有料/無料の間で揺れるアメリカでのネット・コンテンツ・ビジネスの動きがよくまとめられている記事だと思います。

もうひとつは、Slideshareにあった「Content and Community」というプレゼン資料です*1

こちらはネット上でさまざまなコミュニティを展開するサービスを紹介しながら、それらはメディア企業ではなくてユーザー主体で作り上げられていくものだと論じています*2。この2つを読んで面白いなと思ったのは、伝統的なメディア企業とFacebookのような新勢力が、今、それぞれネット上でコンテンツとコミュニティを結びつけようとしているのに、そのアプローチの仕方が随分と対照的だなと感じられたことです。

簡単に言ってしまえば、テレビ局や新聞社などが考える両者の最善の結び付け方は、自らが持つコンテンツに魅力を感じてやってくるユーザーたちを囲い込んでネット上にコミュニティを作ることです。例えばNew York Timesのサイトには記事をTwitterでつぶやくためのボタンがありますが、それを行うにはTimes PeopleというNYT独自のSNSにもメンバー登録しなければなりません。また、SNSという形を取っていなくても、マードックが自社コンテンツをGoogleの検索から外そうとしているのもその一例でしょうし、Comcastなどが自社のケーブルTVに加入している人たちだけを対象に番組のネット配信を始めたというのもこのパターンです。伝統的な"Content is king"の考え方に則った「コンテンツ第一主義」だと言えるかもしれません。

一方、スライド資料ではFacebookのCEO Mark Zuckerbergの言葉が幾度か引用されていますが、「コミュニケーションは情報を得るためにするものだと言う人もいる。でも僕たちは、情報がコミュニケーションを促進するためにあると考えているんだ」*3という言葉が示しているように、こちらは完全に「コミュニティ」を主に考えています。

今すぐにどちらが勝つ、といった話ではないと思います。でも、友人間のメッセージや自分で撮った写真・ビデオなどのいわゆるUGCに加えて、YoutubeやHuluのお気に入りの動画、イベントやキャンペーンの情報、お気に入りのサイトまで、ウェブ上の本当に幅広いコンテンツ(あるいはコンテンツへのリンク)を掲載できるのはFacebookのような「コミュニティ」の大きな強みです。上のスライドのようなものを見ると、新聞記事やテレビ番組といった1次情報としての「コンテンツ」は確かに新聞社やテレビ局がコントロールしているけれど、いつでもどこでも家族や友人とつながっていられる時代には、そうした1次コンテンツから派生する感想だったりキーワード、噂、新たな物語といった2次・3次的な情報も「コミュニティ」の世界ではかなり重要となっていることが感じられます。そしてそれらに対するコントロールは完全にユーザーの側に行っているのです。だとすると、1次コンテンツを貼り付けた上に2次、3次情報のやり取りまでユーザーが行っていく「コミュニティ」という場を押さえた企業の存在感が実はコンテンツ・ビジネスにおいても非常に大きくなって来ているのかもしれません*4

もっとも、コンテンツ製作の主要プレイヤーが比較的長寿*5なのと同じぐらいネット上のコミュニティを押さえるプレイヤーが長寿でいられるのかという点については疑問も残ります。Myspaceの退潮に見られるように、飽きられたりより良いサービスが現れたりすると、それまで注目を集め続けていたものが一気に見放される可能性があるからです。とはいえ、Facebookのようなサービスが集めている、日々蓄積されていく膨大な個人情報というのはビジネスを行う側にとっては大変な資産です。コンテンツとコミュニティの関係は今後より緊密に、そして複雑になっていくのではないでしょうか。

*1:今回のエントリのタイトルはここから拝借しています。

*2:実際にスライドを見ていただくのが一番よくわかるのですが、iPhoneなどでアクセスると見れないこともあるようですので、簡単な説明を追記しました。

*3:原文は "The other guys think the purpose of communication is to get information. We think the purpose of information is to foster communication"

*4:だからこそ数多くのメディア企業がFacebookに自社コンテンツが埋め込めるようにしているのだ、とも考えられます。その幅広さはmixiより数段先を行っているように思えます。

*5:ハリウッドの映画スタジオのように。