ネットならではの報道コンテンツとは-2

前回からの続きです)

BBCの取り組みとしてまず紹介したいのが、先日のインドでの総選挙の報道におけるウェブサイトの使い方です。BBCは、総選挙に向けて3週間近くもインド国内で「選挙列車」を走らせて各地のニュースを集めるという非常に大規模な取材体制を敷きました*1BBCワールドニュースのウェブサイトでは、こんな風に紹介されています。

BBCでは4月25日(土)から5月13日(水)まで、BBC Global News(BBCワールドニュース(TV)、BBCワールドサービス(ラジオ)、bbc.com(インターネット)の国際ニュース部門)のレポーターたちがインド中を列車を使って取材を敢行。デリーやムンバイといった都市部から、農村部の村までを列車で巡り、7億人もの実際インドに暮らす国民たちが選挙に何を求めているかと、選挙の鍵は何かをレポートする。レポートは期間中の毎正時からの国際ニュース番組「BBCニュース」「ワールドニューストゥデイ」などでお伝えする。

その成果のひとつがBBCのウェブサイトに設けられたインド総選挙の特別ページなのですが、中でもインドの地図に取材で得られたさまざまな記事や写真、動画や音声などを組み合わせたインタラクティブ・マップが目を引きます。マップ自体をここに貼り付けることはできないので、下記リンクからご覧ください。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/8000645.stm

ひと月ほど前、南カリフォルニアで起きた山火事の情報をLos Angeles TimesがGoogle Mapsを使って非常に上手く伝えているという話を書きましたが(こちら)、それを取材範囲や取材規模、投資するリソースなどの点でずっとスケールアップしたらこのようになるのかもしれません*2

文字ニュースや写真からBBCのテレビやラジオでも放送された音声や動画リポートまで、さまざまな報道コンテンツが地図上に貼り付けられているので、多少ゴチャゴチャした印象を受けるのは確かです。でもこういう形で取材結果を提示されると、それぞれのリンクをたどることで、どこでどんなことがポイントになっているのかということを視覚的にもつかむことができます。例えば地図上からの1クリックで列車内からの動画リポート(こちら)が始まったりすると、否が応にも選挙列車の臨場感が感じられるのです。「インドで選挙列車を走らせる」というBBCの報道機関としての判断と「インドの取材で得られた記事やリポートを、テレビやラジオ、通常のニュース・サイトに加えてオンラインの地図の上でも提供する」というコンテンツの見せ方に関する判断。どちらか一つだけでも英断と呼べるものになったはずですが、それが組み合わされたことによって、このような非常にユニークな報道コンテンツが出来上がったのだと思います。

余談ですが、BBCインタラクティブ・マップを見て、オンラインで地図と写真や動画などを組み合わせることは報道以外のコンテンツにとって、特に長期の紀行系コンテンツにとってすごく有効な手法になり得るのではないかという印象を受けました。例えば間寛平さんが行っている「アース・マラソン」は、Youtubeへの動画投稿を毎日のように行っていますし、旅の途中で撮った写真をFlickrにアップし、それをサイトの地図に貼り付けています。従来こうした「旅もの」は、ある程度題材が出揃う節目でテレビ放送するのが一般的だったので*3、日々動画や写真、地図、ブログの更新などで視聴者の関心を引きつけることのできる「アース・マラソン」のような取り組みは注目に値します。もし今後、「あいのり」や猿岩石のヒッチハイク旅のような紀行ものの企画がテレビでまた行われることがあれば、ネットを使って旅の軌跡の詳細やテレビ放送では伝え切れない追加情報などを提供していくことが、視聴者からの支持を得る上で非常に重要な要素になることでしょう。

*1:インドがライジング・パワーとして中国とともに世界的な注目を集めているとともに、旧宗主国としての関心や、100万人を超えるインド系住民(英語版Wikipediaの記事より)を抱える国内事情もあったのだろうと思います

*2:どちらが良いと優劣をつけるつもりはありません。地域のニュースを地域の住民やその地に何らかの関わりを持つ人々に伝えるというLA Timesの報道と、世界的な関心事であるインド総選挙について総力を挙げて取材した結果をウェブサイトでも伝えるというBBCの報道では、規模が違って当然です。

*3:関野吉晴さんの「グレートジャーニー」のように。