ネットならではの報道コンテンツとは-3

BBCのニュース・サイトでもう一つ印象的なのが、テレビ局のウェブサイトであるにも関わらず、「写真」を非常に重視していることです。もちろん動画のニュースクリップもたくさんあるのですが、BBCのウェブサイトには「In Pictures」というコーナーが設けられていて、そこでは写真を効果的に使った報道コンテンツが提供されているのです。

例えばGMが破産法を申請した日には、これまでのGMの歴史を写真で振り返るスライドショーが掲載されました(In pictures: General Motors)。

また、「Audio Slideshow」という名で括られた一連の報道コンテンツもあります。これは、写真のスライドショーに音声解説をつけて、設定されたテーマについて数分程度のリポートにしたものです。例えば「天安門事件20年」の関連では、鎮圧騒動が起きる少し前にBBCの特派員が現地で取材したインタビューなどの音声アーカイブ素材を当時の写真と組み合わせ、事件の様子を振り返るというAudio Slideshowが作られています(Audio slideshow: Tiananmen Square)し、オバマ大統領の就任式から100日後までの動きをまとめたもの(Obama 'pleased, not satisfied')もあります。

ご覧いただくとわかるように、スライドショーと音声は、かなり相性が良いです*1。この組み合わせは、動画を伝えることを何よりの役割として成長してきた今のテレビではまず考えられませんが、ネットであれば十分ありです*2。特に上に挙げたような分析や振り返りを目的とした報道コンテンツでは、このように情報を整理し直して載せてくれた方が、下手な動画よりも余程わかりやすいのではないかと思います。また、BBCのウェブサイトにはオバマの就任からの100日を100秒の動画でまとめた好リポートがあるので(こちら)、上のAudio Slideshowと見比べてみるとそれぞれのスタイルの特徴がよくわかるはずです。

さらに、BBCのウェブサイトの中で僕が一番よく訪れているかもしれないページも、写真を中心としたものです。それは、毎週末に更新されるWeek in Picturesという企画で、その1週間に世界で起きた主要な出来事を10枚前後の写真(+文字による簡単な説明)で振り返るというものです。今の最新版である5/30〜6/5までのWeek in Picturesでは、欧州議会選挙の投票所、ナチス強制収容所の外で花を供えるオバマ、Britain's Got Talentで惜しくも優勝を逃したスーザン・ボイル、ノルマンディー上陸作戦の記念行事、そして横浜の開港150周年記念祭などの模様を写した写真が載せられています。

僕がここを気に入っているのは、ここに来て初めて「今週世界ではこんなことがあったのか」と知ることがしばしばあるのに加えて、1枚1枚の写真が見る者を惹きつける強い力を持っているからでもあります。映像のシークエンスで物事を伝える動画とは違い、写真はその1枚ですべてを伝え切らなければなりません。BBCが「Some of the most striking images from around the world this week. 」と謳うだけあって、Week in Picturesに出ている写真には何かを訴えかけてくるようなものが数多くあります。

このように、BBCのニュース・サイトは写真を効果的に使った報道コンテンツがとても充実していますが、ここで注目したいのは、そんな写真の多くが、BBCのものではなく外部から調達したものだということです。上に挙げたリンクをたどるとわかりますが、ほとんどの写真はAPやAFP, Getty ImagesなどのNews Agency, Photo Agencyによるものです。写真を使ったBBCの報道コンテンツは、自社の素材(昔の音声リポートや記事原稿)と外部素材(写真)を組み合わせて作られたものなのです。

こうした報道コンテンツを見ていて、僕は2つの点でBBCのニュース・サイトの制作者たちに感心してしまいます。まずは、オンラインの報道コンテンツは必ずしも常に動画が最適のフォーマットとは限らないことをよく理解している点。だからこそ写真をメインに使った報道コンテンツなどができるのでしょうが、この点を理解するのは、普通のテレビ局にはなかなか難しいことなのではないかと思います。

次に、コンテンツの主要要素として使われる素材に、自家製のものだけでなく外部のものも積極的に使っている点。新聞でもテレビでも、通信社の情報や写真、動画が使われるのは珍しいことではありません。でも、ストレート・ニュースではなく、ニュースのマルチ展開とでも言うべき加工された報道コンテンツの主要部分にも外部素材を使うというのはかなり思い切った決断です。裏を返せば、外部素材と組み合わせる自社素材(原稿や音声)の質が高さや、どの外部素材を使い、それを何とどう組み合わせ、どうやってプレゼンテーションするのかという部分でのスキルやノウハウに自信を持っているということなのでしょう。だから、通信社などから写真を仕入れて素材として使っても、結果的に仕上がる報道コンテンツはBBCならではのオリジナルなものになるのです。BBCのニュース・サイトにあるこのような報道コンテンツを見るたびに、ここはネットの特性をすごく上手に活用しているなと感じます。

*1:もちろん、両者を上手く結びつけるため、構成や演出にはかなりの工夫が施されているはずです。

*2:写真の下部に文字による簡単な解説(Caption)を表示させることもできるので、音を出せない環境にいる人でもおよその流れをつかむことができるというのも便利な点でしょう。