子ども用コンテンツのネット配信
動画のネット配信を行う際にコンテンツの品質が重要なのは言うまでもありません。それは通常「プロが制作したものかユーザー作成コンテンツか」や「トップクラスのコンテンツを確保できるか1.5〜2級の作品に留まってしまうか」といった軸で語られることが多いのですが、今日は少し視点を変えて"子ども用のコンテンツ"とネット配信の関係を考えてみたいと思います。
昨年12月にBBCが「iPlayer*1に子ども用のチャンネルを立ち上げる」と発表したとき(プレスリリースはこちら)、新鮮な驚きを覚えました。上手に使えばインターネットは子どもの教育に大いに役立つツールになり得るということに気づいている人は大勢いるにも関わらず、すでに子ども用のコンテンツが豊富にあるテレビの番組やそのキャラクターをネット上でも教育目的で生かしていこうとする取り組みはほとんど誰も始めていなかったなということにBBCの発表を読んで気がついたからです。
BBCの幼児向けチャンネルであるCbeebies(シービービーズ)の、iPlayer上のチャンネルはこちらです。もちろんイギリス国内限定ではありますが、「Bob the Builder」「Big and Small」「Teletubbies」といった人気番組が山盛りで公開されています。小さな子どもを持つ親にとっては、こうした番組を放送時間を気にせずに子どもに見せることができるというのは非常にありがたいことなのではないでしょうか。プライムタイムに放送される人気ドラマやコメディと比べれば利用者の絶対数はずっと少ないでしょうが、ターゲット層へのアピール度という点では子ども番組のネット配信は非常に強いものがあると感じます。特にBBCのiPlayerはパソコン上で見るだけでなく、任天堂のWiiやイギリス最大のケーブルテレビであるヴァージン・メディアとも連携しているため、テレビ上でiPlayerを視聴するための設備がある程度整っています(例えばdigital spyの記事によると、ヴァージン・メディアは昨年の秋に「iPlayerの総視聴数の1/3は自社のケーブルテレビ経由だと発表しています)。そういう意味でも、子ども向けのiPlayerというのはとても利用価値の高いサービスだと言えるでしょう。
もうひとつ押さえておくべきポイントは、子ども向けコンテンツのネット展開というのは番組自体の配信のみに限ったことではないということです。今度は、アメリカの公共放送PBSの子ども向けサービスPBS Kidsのウェブサイトを見てみましょう。アメリカでPBSの子ども番組を見ていると、番組の合間や終了後のスポットで「ウェブサイトに行けばその番組関連のさまざまな負荷サービスが利用できる」という親に向けた告知が頻繁に流れます。そして、実際にウェブサイトが非常に充実しているのです。
例えば、日本でも放送されているアニメ「Curious George(おさるのジョージ)」のPBS上のウェブサイトには、ジョージをはじめ番組に出てくるキャラクターを使った各種ゲームが楽しめるページが設けられています*2。単純なものですが、「お片付け」だったり「色の勉強」だったり、適度に教育的な内容になっています。ゲームの中で番組内の映像が一部使われていたり、ゲーム用にジョージや"The man with yellow hat"の声が録られていたりするので*3、恐らくは番組の企画をする時点でこうしたネット上の展開も視野に入れて制作されたのでしょう。番組の世界観と上手くマッチしたゲームになっています。
また、PBS Kids内の「Sesame Street」のサイトには、ゲームもありますし、エルモやアビーなどが出てくる動画のクリップがいくつか視聴できるページもあります(こちらは国によるアクセス・ブロッキングがかかっていないので日本からでも見ることができます)。Sesame StreetのクリップはiTunesからも無料でダウンロードできるものがあるので、そちらを利用している方もいらっしゃるかもしれません。
僕が知っている範囲での話ですのでどうしてもアメリカとイギリスの状況が中心になってしまいますが、このようにインターネットは子ども向け教育番組の利便性の高い配信プラットフォームとして、また番組の教育的な付加サービスを提供するメディアとして利用が進められています。今回紹介したのがどちらも非営利の放送局によって行われているサービスだということからも窺えるように、子ども向けの教育コンテンツというのはそれがテレビ向けであれネット向けであれ、ビジネスとして成功させるのがなかなか難しいのかもしれません。とはいえ、ネットの持つそうした公共的な側面はビジネス面に劣らず重要なはずです。日本で動画コンテンツのネット配信が発展しないのはさまざまな権利関係や法制度の問題によるところが大きいと言われますが、原因がどこにあるにしろそこから生じる「遅れ」は、商業的な面のみならず公共サービスとしてのインターネットの可能性を追及・実現していく上で大きな障害となるのではないかと懸念してしまいます。