米Yahooへのサプライズ提案

アメリカのYahooは、昨年来マイクロソフトへの身売りやGoogleとの提携話がうまく進まず、ついには2007年にCEOに復帰した創業者のJerry Yangが再退任するなど混迷を続けています(順調な業績を上げているYahoo Japanとは対照的です)。そんな米Yahooにひとつの提案をするエントリーがGigaomに載りました。その提案とは、「YahooはHuluを買収してはどうか」というものです。"Why Yahoo Should Buy Hulu"と題された記事がそれです。

見出しだけを見た時には「え?」という感じでしたが、中身を読んでみると、面白半分で書かれた記事ではありませんでした。実現の可能性は低いだろうということを十分に承知した上で、それでも両者の統合にはメリットがあると論じるものです。「実際にそんな動きがある」という話ではありませんが(多分)、こんな見方もあるのかと興味深かったので紹介します。

記事で強調されているのは、「YahooがHuluを買収すれば、お互いの強みを生かして足りない所を補うことができる」という点です。具体的には、以下のようなポイントが挙げられています。

米国のYahooは、落ち目にあるとはいえ抜群の知名度と未だ膨大な利用者数を持っています。一方、Huluは急成長の途上にあるとはいえまだまだ一般への知名度が低くアクセス数が少ない(動画の再生回数で言えばYoutubeの1/20)ところが課題です。記事では、Huluを取り込むことによりYahooは勢いを取り戻し、Youtubeにも伍していける強力なネット配信サービスを展開することができるだろうとしています。

また、CEOのJerry YangとともにPresidentのSue Deckerも退任することになったYahooでは、広告ビジネスの経験が少ないとも言われる新CEOのCarol Bartzとともに会社をリードする強力なナンバー2を必要としています。一方、HuluのCEOであるJason Kilarはテクノロジーやコンテンツ、広告の分野がまさに今の本業ですが大企業をかじ取りする経験はありません。もしYahooがHuluを買収してKilarがYahooのトップマネジメントに加われば、両者にとってメリットがあるだろうということです。

また、Yahooはもともとネット上のメディア・コンテンツ企業を目指してきたので、Googleなどと比べてHuluのようなコンテンツ配信企業とは相性が良いだろうとも記事では述べられています。

アメリカのメディアビジネスの中で最も注目を集めていると言えるほどホットな企業であるHuluが簡単に身売りするか(親会社のNews CorpやNBCがHuluを手放すか)という疑問も当然沸いてきますが、これについてもGigaomの記事は「ありえない話ではない」という見方をしています。

Huluを立ち上げる際にNews CorpとNBC投資ファンドからの出資を仰いでいますが、その際にはHuluの企業価値を$1 billion (大まかに1000億円)と算定されています*1。だとすると、仮に現在Huluの企業価値が2倍になっていたとしても$2 billionです。Googleが2年前にYoutubeを買収したのが$1.65 billion, マイクロソフトFacebookの株の一部を購入した時にはFacebook全体の企業価値を$15billionと算定したいたことなどを考えれば、べらぼうに高い額ではありません。もしYahooがそれと同等、もしくはHuluの今後の成長を見越してそれ以上の額を提示し、Huluの親会社がその額を妥当なものだと考えれば、話し合いはまとまるかもしれません。また、Gigaomの記事では、もしNews CorpやNBCがウェブ上で自らの存在感を高めたいのであれば、Huluを売却する代わりに相応のYahooの株を手に入れるという選択は決して悪くないものだろうとも述べています。

この記事には、突っ込みどころもいくつかあります。例えば、YahooはすでにHuluの配信パートナーとしてHuluのコンテンツを自社サイト上で配信しているのだから、Huluを買収したところでそんなに大きな違いが生まれるのか?あるいは、記事では「Yahooはメディア企業を目指しているからHuluと相性がいい」とされているが、Huluは自らをメディア企業というよりテクノロジー企業と位置付けているのではないか(関連エントリー)?など。でも、なるほどと感じる点も多い主張でした。この記事を読んだ後でも「YahooとHuluが一つ屋根の下に収まることはないだろうな」と個人的には思っていますが、余計な先入観や前提条件をひとまず脇に置いて、自由に発想を巡らすことも時には大切だなと感じました。

*1:意外と低いと感じられるかもしれませんが、昨年の広告売上が最大で$90million程度とみられていることを考えれば妥当なところなのでしょう。