アルジャジーラとクリエイティブ・コモンズ

同時多発テロ以降のアフガン情勢やイラク戦争のリポートなどを通して欧米とは違う視点を持つ国際ニュースチャンネルとしての地位を築き上げましアルジャジーラ(本拠地は中東のカタール)ですが、この会社はネット配信を非常に重視している放送局でもあります。

例えば、アルジャジーラは2006年末から従来のアラビア語に加えて英語チャンネル(アルジャジーラ・イングリッシュ)を開設しましたが、この局はアメリカではほとんど放送されていないと言ません(New York Timesの記事)。これとは対照的に、アルジャジーラYoutube上に設けているチャンネルではおよそ7000もの英語ニュースのクリップを掲載しています。

今年1月にイスラエルのガザ進行が始まってからYoutube上のアルジャジーラチャンネル視聴回数が150%もの伸びを示したと先ほどのNew York Timesの記事に書いてあるように、中東(もしくはより広く"イスラム圏"と言っても良いかもしれません)で何かが起こるとアルジャジーラへの関心が一気に高まります。そのニーズに対応するひとつの有力なツールがネット配信という訳です。

特に今回のガザ侵攻については、アルジャジーラは現地の状況を知らせるために非常に思い切った手法を取りました。自社のクルーがガザで撮影したニュースの素材(footage)をネット上に載せ、それをクリエイティブ・コモンズのライセンスに基づいて公開したのです。Al Jazeera Creative Commons Repositoryと名付けられたウェブサイトはこちらでご覧になれます。サイトにはこんな説明が書かれていました。

アルジャジーラの動画素材 ‐ 今回はガザ紛争の素材 - が無料でダウンロード、共有、リミックス、字幕付加、そして再送信できます。アルジャジーラのクレジットさえ入れれば、世界中のユーザーやテレビ局が利用できます。

しかも、非営利のみならず商業利用もOKだそうです。個人レベルでも組織レベルでも、ほとんど誰もが自由に利用できるような形で公開したということです。

ここに載っているのは、Youtube上のアルジャジーラチャンネルにあるような完成したニュースクリップではありません。記者リポートなどもありますが、多くはクルーが撮影してきたガザの様子や現地の人々のインタビューといった「生素材」です。通常であれば、ロイターやAPといったニュースエージェンシーが内外のテレビ局に有料で販売するような類のコンテンツです。特に今回のような戦時下において「攻め込まれる側」の立場からの情報はなかなか外に伝わらないので*1、ガザで撮影した素材はアルジャジーラにとって高額で販売できたかもしれないものです。そのような生素材を、編集などの加工もできれば営利使用もできるという形で世界に向けて無料公開したというのは、革新的な取り組みです。

この取り組みはアルジャジーラカタール王家などから多額の資金援助を受けているからこそできたことなのかもしれませんが、従来の国際ニュース事業の枠組みを将来的に大きく揺るがせる可能性を持つ一手だったのではないかとも感じます。ニュース専門チャンネルにはCNNのような商業局もあればBBCがイギリスで運営するような非営利局もあります*2。その意味で、国際ニュースチャンネルの中には「自社のニュースを世界に広める」ことを重視するところもあれば「国際ニュースの放送や配信を通じて利益を上げる」ことが優先だというところもあるはずです。アルジャジーラの例が示すように、前者の考え方を持つ放送局にとって、ネット配信の活用は非常に利用価値の高いオプションだと言えそうです。

*1:例えば、湾岸戦争時、欧米の取材陣としてただ一人イラクからリポートを送り続けたCNNのピーター・アーネットは一気に名声を博しました。

*2:イギリス国外におけるBBCニュースチャンネルは、BBCの子会社が運営する商業チャンネルです