日本のドラマの多言語配信実験

日経新聞に、日本音楽事業者協会経産省の委託を受けてYoutube上で日本のドラマの多言語配信実験を始めるという記事が出ていました(こちら)。音事協に加盟する芸能プロダクションの協力を得て、今日から3月末までの期間、「プロダクション23社に所属するタレントや歌手42組が出演するインターネット向けドラマ『恋のパラドラ』を制作。英・中・韓・スペイン・ポルトガル語の字幕を付けて配信する。」とのことでした。

音事協のウェブサイトにあるプレスリリースはこちらです。ドラマの詳細はこちら。全8本で、1話完結のラブストーリーでありながら登場人物や場所、アイテムなどが前後の回でリンクをしていくという作りになっているそうです。23社からのタレントと42組の歌手が参加するドラマという数字だけを聞くとどんな大作かと思うのですが、メインキャストも主題歌も回ごとに入れ替わって行くからそんなに人数が増えるんですね。

そして、番組本編はYoutubeのサイトから見ることができます。海外配信をするために準備されたコンテンツと言うだけあって、番組説明もきちんと5ヶ国語で書かれていますし、もちろん再生中に多言語の字幕を表示することもできます。昨年の夏にYoutubeが多言語字幕の付加・表示機能を設けた時にグローバルな動画ネット配信をするための大きなハードルが越えられたと僕は感じたのですが(関連エントリー)、そこから半年足らずで日本産のコンテンツがそのプラットフォームを利用して世界に向けて発信されることになったというのは何だか嬉しいです。

ただ、コンテンツはただ多言語対応で全世界に向けて発信すれば誰もが見てくれるというものではありません。異なる文化や言語を持つ人々を惹きつけるのは、日本国内の視聴者を惹きつける以上に困難が伴うはずです。その点からすると、今回のドラマはパワー不足だという気がします。出演者や主題歌を歌うミュージシャンは僕には馴染みのない人ばかりでしたし*1、内容を見ると低予算で制作されたのがひと目でわかります。テレビドラマなどと比べると使える出演料や制作費がずっとずっと少なかったのでしょうが、このドラマは日本のトップレベルのコンテンツだとは言えません*2。日本のドラマをネット上で世界に発信して海外の広告市場を開拓する可能性を探るという取り組みの意義は非常に大きいものですが、その野心的な狙いに反して出てきたものは随分と小粒だったなというのがドラマを視聴した上での僕の印象です。

また、こうした低予算のコンテンツを提供したところで、日本のドラマに対する海外の視聴者のニーズをどれ程きちんと測定ができるのだろうかという気もします。実際、Youtubeではこのドラマ・シリーズが3〜4週前にアップされたことになっていますが(1/13現在)、最も見られたもので1400回強、少ないものでは450回程度しか再生されていません。本格的な告知活動はこれからなのかもしれませんが、少なくとも現時点ではほとんど話題になっていないということです。海外でもある程度名の知れた役者を起用したり、あるいは日本国内でテレビ放送されて人気を呼んだドラマを海外配信するということであれば、もっと注目を集めたのではないでしょうか。

日経新聞の記事にもあったように、人口の減少などで国内市場が今後縮小に向かうことが予想され、一方で近隣のアジア諸国などを中心にした海外市場が成長を続けるという状況の中、海外展開の推進はコンテンツ産業にとっても大きな期待がかかる分野です。そんな状況の中で国や芸能事務所などが協力してコンテンツの海外向けネット配信実験を行うという時に、このような低予算コンテンツしか出せないというのは、少し残念でもあります。日本の場合は、従来の制約を一気に突き崩すというスタイルではなく、こうした「漸進主義」でしか映像のネット配信は前に進んでいかないのかもしれません。

*1:最近のトレンドに自分が詳しくないだけかもしれませんが。

*2:このドラマのことをけなしている訳ではありません。制作する上でのいろいろな制約が多すぎたのではないかということです。