夢と散りそうなHuluの国際展開

このところほとんど話題に上ぼることもなかったHuluの国際展開ですが、かなり実現が厳しくなってきています。国際展開の第一歩になるだろうと見られていたイギリスで、Telegraph紙が"Hulu 'abandons UK plans' after broadcaster talks collapse"という記事を載せました(こちら)。それによると、ITVを始めとするイギリスの地上波民放との間で番組提供の話が上手くまとまらなかったため、イギリス進出をあきらめる訳ではないけれど当面の間は見送らざるを得ないという状況になっているようです。

Huluはサービスの開始時から今までずっと「アメリカ国内限定」のサービスでしたが、当初からいずれは国際的に利用できるようにしたいという意図をはっきりと表明しており、そのための人材募集なども行っていました。

関連エントリ:「着々と国際化の準備を進めるHulu」(2008/9/19)

僕はHuluのこうした決意表明に共感を覚えていて、テレビ番組などいわゆるプレミアム・コンテンツと国境を越えるネット配信を結びつける試みとして、現地のコンテンツ・ホルダーと協力してジョイント・ベンチャーを起こすというそのスタイルとともに注目していました。でもTelegraphの記事を読んで、今のいろんな状況を考えるとやはり結果的にはこうなってしまったのかという気もします。

イギリスのケースで言えば、交渉が上手く行かなかった最大の理由は「ITVやChannel4などの現地放送局がわざわざHuluにコンテンツを提供するほどのメリットを打ち出すことができなかった」ということに尽きると思います。これらの局はすでに英国内で自社サイトを通じた自社番組のネット配信を行っています。また、放送局が連携して行うネット配信のポータルとしても、Channel4とFIVEの番組およびBBC Worldwideが持つ過去の番組を扱うSeeSawが今年2月にサービスを開始したり*1BBCが主導するIPTVのオープン規格であるProject Canvas(Wikipediaによる説明はこちら)が実現に向けて動き出すなど、イギリス国内の番組がネット上で放送局横断的に視聴できるプラットフォーム作りも進んでいます。イギリスでは、テレビ局の壁を越えるのに敢えてHuluの助けを借りる必要がなかったのです。

また、アメリカで流れる人気番組の多くはイギリスでも地上波テレビ局が購入して放送しているため、そうした番組を自社サイトではなくHuluのサイトでネット配信されると困る、というイギリスのテレビ局側の思惑もあったのではないかと思います。さらにいえば、それらの番組を製作したアメリカの映画スタジオやテレビ局のイギリスの現地法人からすると、それまでは自分たちが代理人として権利をアイギリスのテレビ局に卸していた番組を、Huluがアメリカから直接持って来て自分たちを通さずネット配信してしまうのは勘弁してほしい、という事情もあったのかもしれません。

一方Huluの側でも、一部有料化の準備をしているのではないかという報道が度々流れているように、このところはアメリカで自らのポジショニングをどのように取っていくのかという点に注力しています。例えば最近のLA Timesの記事(こちら)では、早ければ5月末にも月額9.95ドルでより多くのコンテンツが視聴できる「Hulu Plus」というサービスが始まるのではないかと報じています。上記のような国外での厳しい状況を受けてのことかどうかはわかりませんが、最近はドメスティックなサービスとしての地位を高めることに集中うしているようにも見受けられます。

このように、番組のネット配信が徐々に広まりつつあるとは言え、国境を超えるということになるとハードルは極めて高くなります。Youtubeでさえ、許諾を受けたプレミアム・コンテンツを配信する際は大抵「アメリカ限定」での配信になっています。コンテンツをグローバルにネット配信することは、技術的には問題なくとも、権利面・ビジネス面では未だ大きな課題を抱えているようです。

*1:SeeSawは、途中で頓挫したProject Kangalooの技術などを引き継いでArqiva社が始めたものです。Kangalooの末路についてはこちらのエントリを参照。