ジオメディアと音楽

このところ立て続けにジオメディアを取り上げていたのでそろそろ打ち止めにしますが、ジオメディアに関してもうひとつ書いておきたいテーマがあります。全くの思いつき程度の話ですが、ジオメディアと音楽を結びつけたら何か面白いことができるのではないかということです。

糸井重里さんが手がけた『MOTHER』というテレビゲームがあります。現代アメリカ(の架空の地域)を舞台にしたRPGです。もうずいぶんと前のことですが、初めてこのゲームをした時、RPGなのにゲーム中で集めるのが財宝や名誉ではなく「メロディーのかけら」であるという設定に子どもながら感心したことを覚えています。ジオメディアを使えば、ワクワクしながら音楽にまつわる何かを探すというそんな体験を、メディアとリアルを組み合わせて楽しむことができるのではないかという気がするのです。

日本にも、例えば「神戸ジャズストリート」のように「街」を舞台にした音楽フェスティバルがあります。昨年の会場地図(こちら)を見るとわかりますが、これは北野エリアに点在するジャズバーや歴史的な建築物などを使って開催される音楽のお祭りです。僕も以前に行ったことがありますが、小一時間ほどひとつの会場で演奏を楽しみ、次はどこへ行こうかと地図とプログラムを広げて話し合い、途中で面白そうなお店があれば寄り道もする...という参加の仕方は、普通のコンサートと違う楽しさが味わえるものでした。

こうした「音楽+街歩き」の要素を持つフェスティバルは、ジオメディアと相性が良いように感じられます。例えば昨年のフェスティバルで仲良くなった●●さんは今年はあそことここのライヴ会場にチェックインしてるのか、なんてことがわかったりするのもよいかもしれません。あるいは、何年連続の参加とか何件の会場にチェックインしたといったことをジオメディアでカウントし、達成した人に対する特典を用意するといった使い方もできるでしょう。いずれにせよ、ジオメディアは音楽や街歩きを目的とする来場者の志向性とあまりズレない部分でプラスαの楽しみ方を提案できる気がするのです。

また、ミュージシャンのおおはた雄一さんが現在、新アルバムの発売に先立っていつもお世話になっているという数店のカフェでそこからの曲を店内BGMとして流してもらうということをされていますが(こちらを参照)*1、こうした試みもジオメディアと組み合わせることができるのではないかと思います。これをもう少し発展させれば、ミュージシャンが自らを応援してくれる街のお店とタイアップして、ジオメディアを介して自分の音楽とそのお店の両方をPRするなんてこともできそうです。ひとつのアイデアですが、新譜を発売する際に、地元の馴染みのカフェやレコード店などでジオメディアでチェックインすると「新曲のかけら」がダウンロードできるようにするのです。そして指定されたお店を全て回ると1曲が丸ごと完成して、それは特典として回った人にプレゼントされる、なんていう上の『MOTHER』っぽいPRもできるかもしれません。例えば曽我部恵一さんと下北沢のように、結びつきの深い「街」を持つミュージシャンであれば、こうした身の丈サイズの試みは十分可能だし、また面白いのではないかと思うのです。

このように、リアルの世界で街やお店と結びつくことのできる音楽*2は、ジオメディアを通じて一旦リアルとメディアの境界に置き直すことで、ファンやリスナー・参加者の関心領域に即した新しい体験を提供することができるのではないかと感じます*3。CDの売り上げが減少する一方でコンサートなどのライブ・パフォーマンスは盛況(ぴあのデータなどを参照)という状況がある中で、リアルとメディアをつなぐことのできるジオメディアは大きな可能性を持っているのではないでしょうか。特にこうしたジオメディアの使い方が、(巨大資本が東京集中で行うのではなく)ローカルなレベルで、また個人としてのアーティストのレベルで広まっていくと面白いことになりそうだなと思います。

*1:〜4/7まで、とのこと。

*2:もちろん、そうできない音楽というのもあると思います。

*3:これは必ずしも音楽に限ったことではないのかもしれません。