「非ネット」と「ネット」をバンドリングする動画配信ビジネスの新潮流

GEからNBCユニバーサルをの経営権を取得することで最近大きな話題を呼んだアメリカ最大のケーブルテレビ運営会社(MSO) Comcastですが、今度は「TV Everywhere」計画を全米で本格的に展開するという発表を行いました。New York Times(12/16付 "Comcast Introduces a Streaming TV Service")などで報じられています。

TV Everywhereのことは以前にも書きました(こちらこちら)。当初はTime Warnerがこの名前を使っていたのですが、最近では、無料ネット動画の普及がケーブルテレビの利用者を減らすことを危惧したアメリカの大手ケーブル・オペレーターたちが打ち出した「ケーブルテレビの有料加入者にネット上でも番組などをストリーム配信するサービス」を総称してこう呼ぶことも増えてきたようです。

新しいサービスは、"Fancast Xfinity TV"という名称で、Comcastの加入者はこの会社が運営するComcast.netFancast.netからログインしてネット上で番組を見ることができます。Comcastのブロードバンド回線とデジタル・ケーブルに加入していれば追加料金なしでネット動画が視聴できるというのがポイントです。ログインできるのは加入者だけなので、Huluのような無料サービスには協力していないDiscoveryやHistory, そしてHBOなどのケーブル・ネットワークも一部コンテンツを提供しているとのことです*1。そしてComcastNBC Uの経営権を握る以上、いずれXfinity TVとHuluとの連携および仕分けが俎上に上ってくるのは恐らく間違いのないところでしょう*2

そういう流れを受けてかどうか、つい先日eMarketerが発表したオンライン動画の今後についてのリポート(12/18付 "What Is the Outlook for Paid Video Content?" もかなり課金制モデルを評価したものになっていました。2012年にアメリカでオンラインビデオから得られる収入は課金制のものが5.4億ドル(77%)、広告によるものが1.6億ドル(23%)というものです(元データはUBS)。1年半〜2年ぐらい前であればまずこんな予測にはならなかっただろうなと感じるような数字です。

アメリカでは、一時の「ネット上のあらゆるコンテンツは広告によって無料化される」という熱狂が経済危機の影響で一気に冷え込み、「広告はつかないし有料にしたら売れない」という総悲観論が行き渡った後、今は「やっぱり上手くやったらユーザーからお金をもらえるんじゃない?」という方向に向かいつつあるのかもしれません。ただ、その際の課金方法はただ単に「ネット上では1作品幾ら」とするのではなく、NetflixのようにDVDのレンタル権とセットでネット動画が見られるような形の会員制であったり(Netflixのビジネスモデルについてはこちらのエントリを参照)、Comcastなどがやろうとしているケーブルテレビの加入権とネット動画の視聴権を併せ持つサブスクリプション制度であったりと、工夫をこらしているのが特徴です。

もうひとつそんな例があります。Amazon.comが最近始めた「Disc + On Demand」です(ウェブサイトはこちら)。これは、Amazon.comで対象になっている映画やテレビ番組のBlu-rayやDVDを注文すると、ディスクが発送されるのに加えて注文後すぐにAmazonのオンデマンド・サイトで同タイトルの作品をネット視聴できるというサービスです。ネット視聴分は購入者への「ギフト」という扱いになっているので、そのための追加料金は設定されていません。Amazonが動画のネット配信ビジネスも展開しているアメリカならではの組み合わせと言えます。

iTunesが音楽の購入をアルバム単位から楽曲単位に変えたように、またオンデマンドでストリーミングされる動画がテレビ局の決めた番組スケジュールの意味を弱めているように、ネットはメディア企業が作ったパッケージを解体(アンバンドリング)するものだと言われてきました。でもこれらのケースで見られるのは、いったんアンバンドリングされたコンテンツを以前とは違うやり方で再び統合(バンドリング)するという手法です。しかも、バンドリングするのは「ネット」のコンテンツと「非ネット」(DVDやケーブル)のコンテンツです。いずれも動画のネット配信を「見せ球」にしつつ他のところでユーザーからお金をもらおうという仕組みになっていることからわかるように、今の時点ではネット配信だけではなかなかビジネスとして成立しないというのは事実でしょう。ただ、「非ネット」のメディアにユーザーの追加負担なしで「ネット配信」もつけるという試みには可能性を感じます。ネット動画を求める人にとってはある程度のインセンティブになるでしょうし、将来を見据えてネット動画の利用者を増やすという点でも効果があるのではないでしょうか。ネット動画がこうした間接的な形で有料化と結びつき始めたというのはすごく興味深いところです。この新たなバンドリングが今後どんな方向に動いていくのか、注目していきたいと思います。

*1:HBOは通常ケーブルの基本パックには入っていないので、加入するのに専用の追加料金が必要です。ケーブルに入って、しかもHBOに加入している人だけがウェブ上でHBOの番組を見ることができます。

*2:HuluはNBC UだけでなくNews CorpやDisneyなどの出資も受けていますので、Comcastが思うままにコントロールできる存在ではありません。ただ、以前も紹介したように(こちら)最近はHuluの内部でも一部有料制を導入することへの賛成派が増えてきたようだという報道もあります。また、マードックがネット上の新聞記事の有料化などを声高に訴え、Googleを非難しているところなどを見ると、Newsはネット上の動画を有料化する動きが出てきても決して悪くは思わないだろうなという気もします。