電子ブックリーダーの今後に期待したいこと
AmazonによるKindleの世界展開、Nook (Barns&Noble)の発売開始、ハーストによる「Skiff」計画の発表(AFPの記事などを参照)、さらにはAppleが来春にもタブレットPCを出すという噂など、電子ブックリーダーを取り巻く環境がこのところにわかに沸騰してきた感があります。
KindleもNookも日本では基本的に電気店などには置かれていないので*1その機能や使い心地を直接体験するのがなかなか難しいのですが、先日たまたまNookのモデル機に少しだけ触れる機会がありました。軽さや画面の鮮明さは思っていた以上で、これからの発展の仕方次第ではやがて人々のコンテンツへのアクセスを変えるだけのインパクトを持ち得るデバイスになっていくかもしれないという印象を受けました。
1台の端末で最大数十万冊に及ぶ本をワイヤレスで簡単にダウンロードでき、しかも紙の本よりも安いというのはそれ自体すごく魅力的なことです。でも、こんなことを言うのは気が早すぎるかもしれませんがNookのモデル機に触れた時に感じたのは、どちらかというとただ書籍や新聞を読むためだけの端末としてというよりも、文字に留まらないさまざまな種類のコンテンツを取り込んでいく形で発展していった時にそのポテンシャルが最大に生かされるのではないかということです。端末がいろいろなファイルに対応し、もはや用途が限定された「電子ブックリーダー」という呼び名がふさわしくなくなった時が面白いのではないかと思ったのです。
たとえばKindleには今でもワードやPDFのファイルを表示したりMP3を再生したりする機能はついています。でも基本的にはやはり文字を読むための端末ですし、音楽再生機能はあくまでおまけ的な位置づけです。次世代・次々世代のモデルとして、より使い勝手が良くさらに視覚的なコンテンツにも対応した電子ブックリーダー(的な端末)をどこかが発売してくれれば、パソコンとも携帯とも違う、あるいはその間をつなぐデバイスになるはずです。
そうした端末上では、新聞を読むにしてもテキスト記事だけでなく今各社がウェブサイトで力を入れているようなグラフィカルなコンテンツ(関連エントリ)も含めて配信してくれるでしょうし*2、マンガや絵本など、イラストが大きな比重を占める書籍類もストレスを感じずに読むことができるはずです。スクリーンはもちろんモノクロではなくてカラー。一部の携帯コミックなどで見られる、画面の切り替えやカメラワークなどに演出を加えた作品もより迫力が出るでしょう。そして、動画やゲームにもぜひ対応して欲しいところです。
新書版よりも少し大きめという今のKindlaやNookのサイズは、携帯よりもずっと広い画面を持ちながら持ち運びに苦にならない大きさ・薄さ・重量を兼ね備えています。ここにテキストからグラフィック、音声から動画までを扱う幅広さとワイヤレス・ネットワークを利用したアクセスの容易さが加われば、ビジュアル・コンテンツを総合的に扱うポータルかつポータブルな端末が生まれます。そんなものがあったらぜひ使ってみたいと思います。
もちろん、課題もあります。権利ビジネスの常として誰がどのコンテンツをどのプラットフォームに流すのかという問題が起きてくるだろうことは容易に想像できますし、スクリーンのカラー化、電子ペーパーと動画の兼ね合い、バッテリーの持ち時間、また動画など容量の大きいファイルをワイヤレスや携帯のネットワークで流す際のコストを誰が負担するのか*3といった技術面やコスト面のハードルも越えなければならないでしょう。また、コンテンツを読んだり見たりするための再生専用機とするのか、メールの作成やウェブのブラウジングなどもできる小型パソコン的なものにするのかという機能設計上のバランスも端末の成否に関わってくるかもしれません。
採算の取れる見込みがなければどこもビジネスとして取り組まないでしょうから、電子ブックリーダーの多機能化が進むのがいつ頃になるのかはわかりません。でも、こうした課題を上手くクリアした陣営が今は混沌としているこの分野の主導権争いを制するのかもしれません。これからの各社の動向が興味深いところです。