双方向性を生かした「誘う」図表

これまでに幾度か、New York Timesのウェブサイトにある「Interactive Graphic」という随時企画の図表を紹介したことがあります(関連エントリ)。情報を整理して経年変化やグループごとの違いなどが直感的に把握できるように作成された、オンライン・ジャーナリズムならではの優れた試みです。

これらの図表はNYTのサイト上でビジネスとかテクノロジーといった記事の分野とタグづけられていて、トップページからそれぞれの分野にジャンプするとページの脇の方にランダムに表示されます。新しい図表ができるペースが遅く、いったん面白そうな図表などをあらかた見てしまうと後は見覚えのあるものばかりが現れるというのが難点でしたが*1、最近面白い新作を見つけました。アメリカの労働人口をいくつかのカテゴリーに分け、それぞれの失業率を表した"The Jobless Rate for People Like You"というグラフです(こちら)。

ご覧いただくとわかりますが、最初に表示されているのはグラフの縦軸と横軸、そして全体平均の失業率の推移を示す1本の線のみという極めてシンプルなものです。でも、グラフの上にカーソルを合わせたり、調べたいカテゴリーの人種や性別、年齢層、教育歴などを指定したりすると、この表がものすごい量の情報を抱え込んでいることが感じられるはずです。そして少しさわれば、人種や年齢層によって失業率が大きく異なっていることや全体的に男性の方が女性より失業率が高めであることなどがわかるのではないかと思います。

この表を見て感心したのは、一見して何を示しているのかがわかる「シンプルさ」と「わかりやすさ」、そしてその示していることにユーザーの興味を持たせる「情報性」と「つかみ」が上手く組み合わされている点です。まず、表の副題に「全てのグループが不況の影響を同じように感じ取っている訳ではない」と書かれていますが、こうした形でビジュアル化してくれると正にそれが感覚的に伝わって来ます。また、少なくとも自分にとっては、この表はカーソルを動かしていろいろと「探査」してみたくなるような仕上がりになっていて、期せずして様々なグループの比較などをやってしまいました。

特に、以前紹介した、アメリカの映画の興行成績をグラフ化した"The Ebb and Flow of Movies"の表(こちら)からも感じたのですが、上にあげた最後の点はこうした図表の作成を成功させる上でとても重要なのではないかという気がします。「ユーザーの好奇心を刺激していろいろといじってみたい気分にさせることができるかどうか」という点です。どちらもすごく上手に作られているなと思うのですが、押し付けがましさとか嫌らしさを全く感じさせずにグラフを使ってみるようユーザーを「誘って」いるのです。

文字情報の有効性は紙で読んでもネットで読んでもあまり変わりませんが、図表の場合ネットの方が「情報の見せ方」をずっと自由に考えることができます。特に双方向性があり紙と比べてグラフィック上の制約が少ない分、ユーザーからのアクションを誘発できればできるほど、そのコンテンツ(図表)と深く接してもらうことができるのです。ここでは、デザインの果たす役割が大切になります。雑誌や新聞、テレビなどのメディアがネット戦略を考える際には、ただ既存のコンテンツをネット上で流すだけでなく、こうした点をよく考え、同じコンテンツをベースにしながらでもネットならではのデザインや見せ方ができないかということを常に考える必要があるのではないかと感じます。

*1:繰り返し使い続けることができるほど価値のあるものだと考えることもできますが、フォーマットはもう出来ているのだから、内容に応じて月に1度とか年に1度新しい情報を付け加えてくれればいいのにと感じます。そうすると、これは本当に「ずっと使い続けられるコンテンツ」になります。