舞台裏から見たアースマラソン

間寛平さんが取り組んでいるアースマラソンを取り上げた「一歩60cmで地球を廻れ〜間寛平だけが無謀な夢を実現できる理由〜」を読みました。すごく面白い本でした。著者は「電波少年」などで有名な日本テレビ土屋敏男さんと、寛平さんが東京に進出してきた頃にマネージャーを務め、以来大きな信頼を寄せられている吉本の比企啓之さん。どちらもこのプロジェクトの中核を担う仕掛け人です。1冊の本して楽しめたのはもちろん、いかにしてこの壮大なプロジェクトをコンテンツとして、またビジネスとして成功させようとしているのかという舞台裏の部分を非常に興味深く読みました。

一歩60cmで地球を廻れ~間寛平だけが無謀な夢を実現できる理由~ (ワニブックスPLUS新書)
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アースマラソンのことは以前のエントリで少しだけ触れたことがありますが(こちら)、双方向性や即時性、各種無料ウェブサービスの活用など、ネットの特性を最大限に生かした斬新な紀行もののコンテンツとして注目していました。間寛平さんという名の知れたタレントが「出演」し、吉本・日本テレビ電通という言わばテレビとともに成長してきた伝統的な企業が「主催」しているので、強く意外性を感じたということもあります*1。それで、一方ではコンテンツとして楽しみつつ、他方ではプロジェクトの背景にもすごく興味を持っていました。この本は、まさにその知りたい部分に触れていたのです。

1日50キロという距離を毎日走り続けるということがいかに大変なことなのかとか、寛平さんの「思いつき」で始まった計画がどのように周囲の人を巻き込みひとつのプロジェクトとして実現されるに至ったのかといったことももちろん興味深く読みました。でも個人的に一番面白かったのは、当初はテレビの特番を作って資金源にしようとしていた目論見がネット中心のコンテンツに衣替えされ、そこに「電波少年」や「24時間マラソン」、「第2日本テレビ」など新旧メディアで蓄積された経験やノウハウが組み合わされて今のようなスタイルになったという過程、そしてネット中心のコンテンツとしてこのような企画を行う目的とこの企画の持つ可能性が、プロジェクトの仕掛け人の立場から語られている点でした。出演者にとってのメリットやスポンサーへのアプローチ、視聴者との関係性に至るまで、ネットだからできること(あるいはできないこと)をすごく意識して進められてきた企画だということが改めてわかりました。

そして何より強く感じたのが、エンターテインメントのプロフェッショナルが集い、対象とするメディアの特性を共に理解した上でそれぞれの立場(寛平さん:出演者として、そしてランナーとして、比企さん:間寛平という芸人をプロデュースする立場として、土屋さん:コンテンツのプロデューサーとして)から全力を尽くすと、例えそれが自分の「ホームグラウンド」ではなかったとしても、ものすごく斬新で面白いものが生まれ得るんだなということです。それは、例えばアースマラソンと今年初めに"世界一素晴らしい仕事"の募集として話題になったオーストラリアの「Island Caretaker」*2のブログ(こちら)を比較するとよくわかる気がします。

有名人が前面に出た一大プロジェクトと一般人を対象にした企画を同列に扱うことができないのは当然ですし、優劣をつけるつもりはありません。でも募集時にはあれ程世界的な話題を呼んだキャンペーンが、「管理人」(イギリス人の男性)が決まって実際に彼がハミルトン島で暮らし始めてからは、日々YoutubeFlickrなどを駆使したブログが更新されているにも関わらずすっかり下火になってしまっています*3。これは、「管理人の暮らしぶり」をひとつのコンテンツとして捉え、継続的に注目を集めてもらえるような仕掛けや売り方を考えるプロデューシングの努力やスキルが欠けていることが一因ではないかと感じられます*4

コンテンツの性質が違うと言ってしまえばそれまでですが、もしコンテンツをより面白いもの、より多くの人に見てもらえるもの、そしてより売れるものにしたいのであれば、やはりエンターテインメントのプロフェッショナルたちが培ってきた経験やスキルは大きな強みになると思うのです。その意味で、アースマラソンの今後とともに、アースマラソンに続くネット主体のコンテンツとしてどのようなものが出てくるのかというところがすごく気になります。


<お知らせ>
このブログのTwitterアカウント(d_revolution)を作ることにしました。なかなか十分な時間が取れないことも増えてきたので、興味を惹かれた話題などを簡単に紹介していくようなことにそちらを使えないかなと考えています。

*1:ちなみにこの3社は、JoostやHuluを使った日本産コンテンツの海外配信実験でも手を結んでいました(関連エントリ

*2:グレートバリアリーフに浮かぶハミルトン島に半年間住んで島の簡単な手入れやブログによる情報発信などを行う管理人を募集し、1000万円近い報酬を出すというクイーンランド州観光公社のキャンペーン

*3:11/14現在のAlexa.comのデータによると、アースマラソントラフィック・ランキングは日本で4534位、世界で64834位で、過去3か月のリーチは +8%。これに対してIsland Caretakerのブログはオーストラリアで34594位、世界で154742位で、過去3か月のリーチは -24%。

*4:何らかの方法でプロデュースしなければならないと言っている訳ではありません。募集時にあれ程の注目を集めることができたのだから、クイーンズランド州政府の観光プロモーションという目的は既に達していると考えることもできます。また、「リアリティ・ショーではないのだから、管理人としてやって来た人の暮らしには敢えて演出を入れたりイベントを設けたりすることなく、彼が体験し、感じたままを飾らずに発信してもらえばよいのだ」という考え方も当然成り立ちます。