絵本とネット配信

先日、ディズニーがネット上で絵本の配信ビジネスを始めたことについてのエントリを書きました(こちら)。コンセプトには共感できるけれどちょっと使いにくい点や読み聞かせ機能が充実していないところが難点、というのが僕の感想でしたが、ネットやテレビと子ども向けの物語を組み合わせようという試みは他にもいくつか行われています。

例えば、第一印刷という会社のウェブサイトでは自社で企画・制作したデジタル紙芝居が2作品公開されていますし(こちら)昭和初期の紙芝居をデジタル化して音声つきでウェブサイトに載せているデヂタル紙芝居ネットというサイト(こちら)もあります*1。また、コナミは今年の夏にWii向けのソフトとして、テレビの画面で昔話の紙芝居を見たり、自分で話を読み上げたりすることができる「テレしばいWii」というソフトを発売しています。

こうした試みはいずれもすごく興味深いものだと思います。でも、あくまで個人的な感想ですが、あまり自分にとって馴染みのない物語だったり、知っている昔話でも絵の雰囲気がイマイチだったりするものがあると、それほど興味をそそられないのです。これらの新しいスタイルの紙芝居を見て、多くの人に親しまれている絵本などをデジタル化して紙芝居形式でネット配信することができればもっと面白いのになと感じました。漫画の世界では携帯への配信が普及してきていますが、携帯へとは言いませんが同様のスタイルで絵本を配信できないかということです。

絵本には、数十年も前(あるいはもっと昔)から人々を惹きつけてきた定番の作品が数多くあります。そうした絵本をデジタル化すれば、子どもだけでなく、自分の幼児期にその絵本が好きだったという親の世代も惹きつけることができるのではないでしょうか。そして、そこに読み聞かせ機能や、携帯コミックでも行われているようなちょっとした演出−イラストのクローズアップやパンといったカメラワークや絵の切り替え、効果音やBGMなど−をやり過ぎないように加えれば、紙の絵本とは違った新しい魅力が生まれるかもしれません。

日本で広く知られている絵本を対象にしている訳ではありませんが、このように演出を加えた英語の絵本の読み聞かせサイトがあります。Storyline Onlineというサイトです(こちら)。これは、ハリウッドの俳優組合であるScreen Actors GuildのNPO財団(SAG Foundation)が行っている非営利のプロジェクトで、組合に加盟している俳優や女優が絵本を読んでくれるのです。使われる素材は実際の絵本です。冒頭で読み手による絵本の簡単な紹介が行われた後、上に書いたような演出が加えられたデジタル絵本の読み聞かせが始まります。

途中で幾度か読み手の顔が映し出されるのはちょっと余計な気もしますが、恐らくは無償もしくはそれに近い形で「出演」しているのでしょうから、仕方ないのかもしれません。実際に見ていただくと、読み聞かせとは言っても映像の演出面に結構な手間がかけられているのがわかるかと思います。紙媒体の絵本を素材にしつつ、それとは明らかに違うコンテンツになっているのです。しかも、絵本をもとにテレビ番組や映画などの映像作品を作るよりは遥かに低予算でできるはずです。

このようなことを行うにあたっては、作家や出版社から許諾を得るのが一番大きなハードルになるかもしれません。Storyline Onlineの場合は非営利だから許可を取り安かったという面もあるのでしょう。しかも、ラインナップはそれほど多くありません。収益を上げる見込みがなければこれをビジネスとして行うことは当然できないのでしょうが、非営利のプロジェクトとしてでもこうしたデジタル絵本が増えていけば、新しいスタイルの絵本の楽しみ方として支持を得ていく可能性があるような気がします。

もちろん実際にどうなっていくのかということはわかりませんが、コンテンツとしても楽しみ方としても親と子をともに惹きつけられるようなデジタル絵本があれば、それは非営利のプロジェクトとしてもビジネスとしても歓迎されるのではないかと感じます。

また、こうしたデジタル絵本がパソコン上だけでなくもっと気軽に持ち運びできる端末上でも利用できるようになるとさらに面白いことになります。例えば今は白黒の画面しかないKindleのような電子ブックリーダーが何年後かにカラー化したら、絵本も有力なコンテンツのひとつになるかもしれません。iPhoneの画面は絵本には少し小さすぎる気がしますが、「2年後の携帯はどうなっているのか」というNew York Timesの11/4付けの記事("What Your Phone Might Do for You Two Years From Now")によれば折りたたみ式のディスプレイで画面が大型化するだろうと予測する専門家もいるようなので、携帯向けのコンテンツとしても絵本が受け入れられるようになるかもしれません。

*1:この記事を書いているときに内容を確認しようとしましたが、上手く再生できませんでした。