共感の音楽マーケティング-1

先日「Playing for Change」の音楽クリップを紹介した時(こちら)に、共感の対価としてお金をもらうという音楽の売り方があるのではないかということを書きました。「Playing for Change」のようにメッセージを広げることを目指すのか、通常の音楽ビジネスのように売り上げを最大化することが第一の目標なのかは別として、共感を与えるというのはとても有効なマーケティングの手法です。

映像と音楽は非常に相性がいいので*1、テレビとのタイアップは以前からヒット音楽を生み出す常套手段でした。でも今は、タイアップに加えてウェブサイトでも効果的な音楽の扱い方をすることで、より共感をマーケティングにつなげやすくなるのではないかという気がします。共感を売り上げに結びつけるもっとも効果的な方法は、ユーザーが共感を覚えた時点ですぐにその商品やサービスを購入できるような導線を作り上げることです。そして、その導線を作るにはテレビよりもネットの方がずっと向いているメディアだからです。

アメリカのテレビ局ABCは、今年5月にウェブサイト上に「ABC Music Lounge」というページを立ち上げました。動画も扱うウェブラジオといった感じのサービスなのですが、新人などABCがお薦めするミュージシャンのクリップやPV、インタビューなどが流れているのに加え、注目すべきはここがドラマなどABCの主力番組で使われる音楽を探し、購入するためのプラットフォームにもなっていることです。

例えば、Music Lounge上で「Grey's Anatomy」のページ(こちら)に行くと、ドラマの音楽監督からの言葉や、ドラマで扱うミュージシャンの名前などが出てきます。また、「Music Guide」のページ(こちら)では、各放送回で使われている主な楽曲とその使用シーンなどを見ることができます。そして、ミュージシャンの名前や曲名をたどっていくと、Amazon.comダウンロード販売のページにつながるような仕組みになっています。

正直なところ、これがサービスとしてすごく良くできたものだとは思いません。ABCのサイト上では「Buy (購入)」ボタンしかなく、試聴するにもAmazonのサイトに行ってからでないとできないというのは不便ですし、商売っ気の強さだけを感じます。また、番組内で使われている楽曲やミュージシャンとウェブラジオで流しているそれらがあまり連携していないところも、個人的にはもう少し何とかした方がいいんじゃない?という気がします。でも、ネット上に自社の番組で扱う音楽についての情報をまとめた"ミュージック・ラウンジ"を作るというアイデアはすごく良いと思いますし、試聴とか映像部分との連携とかユーザーからのコメントといった点で改善してほしい機能はいくつもあるにしても、番組が与えた共感をネットを用いて販売に結びつけようとする取り組みとしてとても参考にできるものだと感じます。

共感を与えるのはあくまで番組の本編なので、日本の場合だと共感=テレビ、マーケティング=ウェブ*2だと取られてしまいがちです。でも、番組本編のネット配信が盛んに行われているアメリカやイギリスなどでは、共感とマーケティングがともにネット上にあるのです。日本でも徐々に番組のネット配信が普及しつつある中、ネットを使った共感マーケティングというのは番組で使われる音楽のマーケティング方法として今後重要になってくるのかもしれません。

*1:心に残る映画やテレビのシーンには大抵音楽が効果的に使われています。

*2:もちろんテレビでも、番組末尾でサントラの告知をするなどの手法は行われていますが。