「どローカルなジャーナリズム+ネット」は新聞の武器になる-2

最近取り上げた南カリフォルニアの山火事はほとんど沈静化したようですが、山火事による避難指示エリアや道路封鎖、避難所の場所などを刻々と更新し続けたLA TimesによるGoogle Mapsの地図には、いくつもの感謝のコメントが寄せられています。
一部を引用します。

素晴らしい、信用性の高い地図を本当にありがとう。写真やコメントもあって、山火事報道の中ではこれが1番だ。テクノロジーは、まさにこうしたことに使われるべきだね。

私はサンタバーバラに住んでいますが、このような最新の情報を得ることができませんでした。サンノゼにいる息子がこれを見つけて家族全員に送ってくれたんです。ここで何が起きているのかを知ることができるようにと。

ずっと情報を更新し続けてくれて、どうもありがとう。この地図は、他のローカル・ニュースメディアや地元の自治体が提供した情報を合わせたよりもずっと役立ったよ。コミュニティに対する素晴らしいサービスだ。News Press*1よりもずっと長く、LA Timesの購読を続けることにするよ。

私たち夫婦は東海岸に住んでいますが、娘がUCサンタバーバラの生徒なんです。あなた方の報道に本当に助けられました。数時間おきにここをチェックしていました。詳しい報道をしてくれて、本当にありがとう。

実際にここにコメントを残した人の何百倍もの人が、この災害の最中に何が起きているのかを知ることができたことに対して、静かに感謝をしているはずだわ。

などなど。もっと更新の頻度を上げてほしいといった要望・不満の声も少数見られましたが、ほとんどのコメントはここで紹介したようにLA Timesの取り組みを高く評価し、感謝の気持ちを表すものでした。そしてLA Timesは、こうした声を受けてかどうかはわかりませんが、今度は山火事で被害に遭った住宅をまとめた新しいGoogle Mapsを作っています。

View Map of burned homes in Santa Barbara in a larger map

LA Timesは、恐らくこれらのGoogle Mapsから収益を上げることはほとんどできないでしょう*2。でも、代わりにサンタバーバラの住民やこの地域と何らかの結びつきを持つ人々からの強い支持と信頼を得ることができました。これは、中・長期的に考えればLA Timesのビジネスにプラスに働くはずです。

ネット上で検索すればさまざまなテレビや新聞、ブログなどの記事が無料で簡単に読める現在、ある特定の新聞を購読する、あるいはある特定の新聞のサイトを日常的に訪れる最大の動機は、その新聞に対して抱く共感や忠誠心になるはずです。そしてそうした共感や忠誠心を得るための最も有効な方法は、ジャーナリズムに基づく報道を、読者のニーズに合った形で提供していくことなのではないかと思います。

特にネット上では、伝統的な紙媒体の新聞よりも情報の提供スタイルがずっと自由です。その分、情報の「見せ方」が重要になります。情報をどのような形で提供するかによって、コンテンツとしてのニュースの質に大きな差が生じ得るのです。ジャーナリズムとしての報道内容が読者にすり寄るものであってはならないのは昔も今も同じですが、今の時代、情報の「見せ方」については読者のニーズ(読者が気付いているものも気付いていないものも含めて)を満たすスタイルをその都度見つけ出していく必要があります。この点で、LA Timesの山火事への対応は見事だったと思います。「うちはプリント・メディアだ」という意識にとらわれて紙面の記事をそのままネットに載せるだけの新聞よりも、手間や創意を惜しまずネット上での情報の見せ方を常に考える新聞の方が、ずっと大きな読者からの支持を得るようになっていくことでしょう。

*1:サンタバーバラを拠点とするローカル新聞

*2:地図自体には広告が付いていません