NYTのInteractive Graphics

先日、New York Timesのウェブサイトにあるグラフが新聞社の取材力とデザイン性を兼ね備えたネットならではのプレゼンテーションになっているという話を書きました(こちら)。その際に取り上げたのはアメリカの映画の興行収入を潮の干満に見立てて表したグラフ各地の失業率を色づけしたアメリカ地図でしたが、他にどんなものがあるのかを調べてみることにしました。

通常こうした図表は、NYTのウェブサイトでトップページからBusinessとかTechnologyといったカテゴリーに入って行った時に、関連性の高いものからランダムで表示されるようになっています。でも、それらには「Interactive Graphic」という統一の名称がつけられているので、この語句でサイト内検索をすると関連するコンテンツのみをソートすることができます。

図表だけでも膨大な数に上るのですが、ざっと見て僕が興味を惹かれたものにはこんなのがありました。

The Super Ad Bowl
「最も高価なCM枠」と言われるスーパーボウルにどの会社がどんな広告を出したのかを1984年から年ごとにまとめたもの。近年のものを中心に、CM自体を視聴できるようにもなっている。

Inaugural Words: 1789 to the Present
初代のワシントンからオバマに至るアメリカの歴代大統領の就任演説を、キーワードで分析したもの。各大統領の演説のキーワードがタグ・クラウド形式で登場する機会の多かった言葉ほど大きく表示されている。黄色いハイライトが施されている言葉は、他の大統領の演説と比べて有意に多くつかわれた言葉(オバマの場合はgeneration, crisis, job, endureなど)。気になる言葉をクリックすると、その言葉を含む演説のフレーズが読める。

Olympic Medal Count Map
1896年〜昨年までの近代五輪各大会における国ごとのメダル獲得数をグラフ化したもの。国名をクリックするとその大会でどの選手がどの競技で何のメダルを取ったのかが表示される。

Mostly Gloom for Glossies
右肩下がりに広告の出稿が減っている雑誌界の厳しい現状をひと目でわかるようにしたグラフ。2005年と2008年の、いろいろな雑誌の広告ページ数を比較。

Tracking US Airways Flight 1549
ハドソン川の奇跡」で知られるUS Airways1549便の離陸から着水までの軌跡を地図とアニメーションで示したもの。新聞社のウェブサイトで見るコンテンツとしては、この事件の動画ニュースよりもこうしたスタイルのものの方が他のテキスト記事との落差を感じずに自然に読める気がします。

これらを見ていて気づくのは、年ごと、年代ごとの変化をわかりやすく表した図が多いということです。そうしたものは新たなデータを流し込む度にどんどんアップデートされ、情報が蓄積されていきますから、最初のフォーマットさえ力を注いで作ればあとはそれほど手をかけずにコンテンツの価値を継続的に増していくことができるのです((例えば、スーパーボウルの広告のグラフは2007年版2008年版という過去のものも残っていて、毎年データが積み重ねられていく様子がわかります。))。記事やデータのアーカイブを、しまい込むのではなくてどんどん表に出して活用していくためにはうってつけの仕組みでしょう。

アメリカの新聞業界が置かれた状況は非常に厳しく、今年1〜3月期の広告収入は前年同期比で30%ものマイナスになるところも出てきそうだという見方が出ています(NYTの記事"Newspaper Ad Revenue Could Fall as Much as 30%")。その打開策の一つとしてウェブ上の記事(の一部)を有料化するという方法が検討されている訳ですが、記事やデータを上手に組み換え・再構成しながら上に挙げたような視覚的なグラフィックを作り、その部分をプレミアムコンテンツにするというのはひとつの手としてあり得るのかな、という気がします。

一方、五輪のメダリストの数や歴代大統領の就任演説の内容などは新聞社でなくとも入手できる情報だということを考えると、こうした情報を有効に活用できるのは必ずしも新聞社ではないのかもしれm。物事を見る切り口の鋭さとデザイン力を併せ持つベンチャー企業であれば、自らがこうした情報を整理して斬新なプレゼンテーションのスタイルを作りだし、それを新聞社などに売り込むという事業も展開できそうです。特に日本の新聞社のウェブサイトではあまりこうした視覚性と情報性の高いグラフを目にする機会がないので、ビジネスの機会はありそうな気がするのですが、どうでしょうか。