Youtubeをめぐる2つの動き

Youtubeのビジネスとしてのポテンシャルを感じさせる2つの出来事が相次いで起こりました。まず、Youtubeが昨年の秋から始めていたテレビ番組などの配信を大幅に拡充するという動き。Cnet Japanの記事によると、Youtubeは新たにSony PicturesやLionsgate,MGM,BBCなどと手を結んでプロが制作したコンテンツを集めた専用エリアを設け、そこで多数のテレビ番組や映画を提供していくんだそうです。ただし利用できるのは米国内のみ。また、同じ話題を報じた4/18付け日経新聞の短い記事「ユーチューブ 映画・TV番組本格配信」(日経のウェブサイトには載っていませんでした)では、「旧作を中心に映画を数百本、テレビ番組を数千本規模で配信」する予定だと紹介されています。

昨年10月にYoutubeがテレビ番組の配信に乗り出した時は、主要なパートナーがCBSのみでしかもコンテンツもお付き合い程度に提供された過去の作品ばかりだったので、僕はむしろYoutubeにとってマイナス面の方が大きいのではないかと否定的な見方をしていました(こちらを参照)。でも、相変わらず旧作が中心という弱点はあるにしろ、日経新聞に書かれていたように本当に大幅なプレミアム・コンテンツの拡充が実現するのであれば、それが動画配信ビジネスの世界に与えるインパクトは非常に大きなものがあるでしょう。Youtubeは動画サイトの中で圧倒的なトラフィックを持っているのですから。

もうひとつの出来事は、Youtubeに投稿されたテレビ番組のクリップを通じて普通のおばちゃんが一躍世界の注目を集めるようになったという話です。ご存知の方も多いかと思いますが、イギリスの民放ITVが放送する視聴者オーディション番組「Britain's Got Talent」(イギリス版の「American Idol」のような番組)に出演した47歳・無職のスコットランド人女性Susan Boyleが、"場違いなところに来たんじゃない?"という審査員や観客からの冷たい反応を見事な歌声で大熱狂に変えてしまったというお話です。

4/11にテレビ放送されてからすぐにネットにもこのシーンが投稿され、Viral Video Chartの数字を見るとこれまでネット上での視聴回数は5200万回を越えているようです。特にYoutube上にはこのクリップがいくつも投稿されていて、視聴回数が540万回、480万回、250万回などいずれももの凄いレベルに達しています。大きな話題になったクリップが多数あるYoutubeの中でも有数の大ヒットでしょう。Youtubeは、Susan Boyleの名前を世界に広める上で極めて大きな役割を果たしたと言えます。

Susan Boyleのケースは、Youtubeが持つ強力な口コミ伝播力とテレビ番組が持つコンテンツとしてのパワーが見事に組み合わされた良い例です。このような事例を見ると、Youtubeが本格的に映画やテレビ番組の配信に乗り出すことはビジネスとして非常に大きな可能性を秘めているように思います。

ただ、一方でYoutube上で話題になったSusan Boyleの動画は、勝手にアップロードされたものだということにも注意が必要です。Youtubeがテレビ局などと提携してプレミアム・コンテンツの配信をするということは、合法的でないルートで投稿されたコンテンツへの対処が厳しくなるということも意味しています。もし仮にSusan BoyleのクリップがITVYoutubeの合意の下でイギリス国内のみに向けて公開されていたら、そしてその「本家」以外にアップされた番組クリップが次々に削除されてしまったら、いくらコンテンツが面白くても盛り上がりの度合いはずっと小さかったでしょう。コンテンツオーナーとの良好な関係を保ちつつYoutubeがこれまで築き上げてきた自由度や懐の深さを守っていくことができるかどうか次第で、Youtubeが行う映画・テレビ番組配信の成否が大きく変わってきそうだなと感じます。