日本でもネット配信本格化の兆し

この1週間ほど、日本のテレビ局によるネット配信の話題を多く耳にしました。まず気になったのが、TBSがプライムタイムに放送したドラマやバラエティ番組を無料でネット配信するという話(TBSによるプレス・リリースはこちら)。とりあえずは今月初めから3月末までの「お試し」という位置づけのようですが、現在放送中のドラマ「ラブシャッフル」とウンナンの「ザ・イロモネア」がCMつきで無料配信されています。

「見逃しサービス」に関しては、これまで国内で課金モデルでのサービス事例はありましたが、この度の「TBSオンデマンド無料見逃しサービス」では、放送中のゴールデン・プライムのドラマ・バラエティを「広告付き無料」で見逃し配信するという点が大きな特徴です。本トライアルが民放キー局としては初の試みとなります。(TBSのプレス・リリースより)

とあるように、これは日本のテレビ局が自社の持つトップ・コンテンツを無料でネット配信に回す初の取り組みです。たった2番組での開始ですし、ネット配信する期間が「テレビ放送の48時間後から次回のオンエアまで」となっているので利用者が多いであろう週末には何も見られない状態になっている(「ラブシャッフル」は金曜22時〜日曜22時、「ザ・イロモネア」は土曜18:55〜月曜18:55の間はネット配信なし)など、それはどうかと感じる点が多いのも確かです。でも、TBSのサイトだけでなくYahoo動画でも視聴できるようにしている点や、CM量を抑えて視聴者のストレス軽減を図っていること、そして有料とはいえ4月以降は過去のドラマなどネット配信のラインナップを増やそうとしているところなどから、TBSの本気度がかなり高いことが伺えます。

そして何より、地上波テレビのプライムタイムで放送されるような番組はきちんと作られているなと感じました*1。「ラブシャッフル」は視聴率的には決して好調だとは言えませんし、僕もテレビでは見たことがありませんでした。でも、ネット配信されているものを見てみたらこれまでのストーリー展開などが全くわからないにも関わらず楽しむことができました。経産省の委託を受けて音事協Youtube上で世界に向けて流している「恋のパラドラ」(関連エントリー)などと比べると完成度が遥かに上です*2

こういう一級品のコンテンツがネット上にたくさん出てくるようになれば、日本でもウェブで長尺の動画コンテンツを視聴することがもっともっと一般的になるはずです。そして、スピードの緩急はあるにしても、今後テレビ番組がその方向に動いていくことはまず間違いないでしょう。今回の試みはそれを支える収益モデルとして無料型と有料型のどちらがより有望なのかを推し測る試金石となるのかもしれません。

次に、フジテレビの新たな取り組みも報じられていました(日経新聞2/2付け「番組のネット配信 フジが本格化」)。KDDIやNTTコミュニケーション、JCOMなどと提携して、テレビ番組をネット経由で携帯電話やケーブルテレビ、ネット対応テレビなどに配信するとのことです。こちらは有料型で、料金は1話300円前後となりそうだということです。携帯電話への単純な番組配信はそうそう上手くは行かないのではないかと僕は感じていますが(関連エントリー)、自社の持つチャンネル以外にもさまざまな経路を通じてコンテンツを送り届けることはテレビ局の将来にとって非常に大きな意味を持っています。こちらも興味深い取り組みになりそうです。

そして最後に、日テレの動画サイト「第2日テレ」が初めて単月黒字になったという話(2/4付け日経新聞の記事)。僕はこのサイトのコンテンツをほとんど見たことがないのであまり詳しいことは言えませんが、日経の記事には黒字化の要因をこのように分析しています。

現在はスポンサー企業の商品が露出するバラエティー番組やドラマを独自制作し、これをサイトと同時期に地上波のCMや深夜番組でも紹介する手法で収入を増やしている。

アメリカやイギリスのネット配信事情を見ていると地上波の人気番組をいかにして上手くネットに展開するかというところに目が行きがちです。でも、ネット向けの独自コンテンツをテレビでも宣伝して視聴増加につなげるという手法も確かにありでしょう。広告収入の減少などが叫ばれながらも今でも地上波テレビが圧倒的な存在感を持つ日本では、逆説的なようですが地上波の力を上手く利用することがネット配信をビジネスとして成立させるためのひとつの鍵となるのかもしれません。

*1:もちろん全てがそうだとは言えないでしょうが。

*2:言うまでもありませんが、予算規模も格段に違うのでしょう。