BBCがデジタル時代に描くビジョン-1

インターネットや携帯の急速な普及などによって激しく変化しているメディア環境の中でテレビや新聞といった伝統的なマスメディアが生き残っていくためには、会社のトップの役割が極めて重要になります。彼らが描く自社の将来像と、そのビジョンの実現に向けた決意・指導力が企業の方向性やスピードに直接影響を与えるからです。

このブログでも幾度か紹介しているように、BBCはデジタル化による環境の変化を上手に自らの事業に取り込む会社だなと僕は感じています。そしてそれを可能にしているのは、変化の行く末を鋭く展望して進路を定める経営陣のビジョンなのではないかと思います。今回はBBCの経営陣が発した言葉からこの会社のビジョンを考えてみたいと思います。

例えば、BBCの会長Mark Thompsonは、2006年4月の段階でこんなことを言っています(Royal Television Society Fleming Memorial Lecture 2006での講演より)。

BBCは、もはやテレビとラジオに多少のニュー・メディアが付随的に加わった放送局ではない。私たちは、公共サービスのコンテンツを、視聴者が望むいかなるメディア上でも、そしていかなる機器を通じてでも届けなければならない。たとえ彼らが家にいようとも、移動中であろうとも。(中略)それは、必ずしもより多くのコンテンツが必要だということではない。それぞれのコンテンツからより多くの価値を引き出すということなのだ。

ご存じのとおり、このビジョンが具体化されたのがiPlayerです。もちろん、この発言が行われた時点ではもうiPlayerの開発は進められていました。また、番組のネット配信という構想は前会長のGreg Dykeの時代にすでに表明されていました。とはいえ、iPlayerが開発の過程で骨抜きにされたり中途半端な妥協の産物になってしまうことなく非常に質が高く使い勝手の良いサービスになったのは、Mark ThompsonやAshley Highfieldなどのトップ層が明確なビジョンを描き、その実現に向けて本気で取り組んだからに他なりません。イギリスと日本では著作権や肖像権についての考え方や法制度が違うでしょうから単純な比較はできませんが、iPlayerの事例は、覚悟さえ決めればテレビ局がネット配信の流れを主導することも可能なのだということを示しているように思えます。