BBCが描くネット上の国際戦略

先週、BBCの番組が日本でネット配信されるようになったという報道がありました。日本で映像のネット配信プラットフォームを運営するビデックスのサイト上で有料のダウンロード型レンタルを行うんだそうです(ビデックスによるプレス・リリース)。配信される作品が「ブルー・プラネット」「リトルブリテン」「アガサクリスティのミス・マープル」などと発表されていますから、過去〜近年に放送されたドラマやドキュメンタリーの名作が提供されるのでしょう。(ビデックスのサイトはこちら)。日本のスカパーやケーブルTVで見ることができるBBCのチャンネルはニュースが主体ですから、こうした番組系のコンテンツをネットで配信してもお互いにマイナスの影響を与えるようなことはほとんどないのだろうと思います。

このニュースを知ったとき、ひと月ほど前に英Guardian紙に出ていた記事のことを思い出しました。その記事は、BBCでDirector of Future Media & Technologyを務めるErik Huggersのことを取り上げたものです*1。記事を読んで印象的だったのは、Huggersが「BBCはネットを使ってグローバルなサービス展開を目指す」という方針を明確に打ち出していたことでした。Screen Digest主催のカンファレンスにおける発言として記事に紹介されていた箇所から、一部引用します。

彼(Huggers)は、iPlayerは国際的に展開されるべきだ、BBCのウェブサイトはよりソーシャルメディア的な要素を加えるべきだ、そしてBBC業界標準の策定に尽力し、コンテンツをさまざまなデバイスに向けてより簡単に展開できるようにすべきだと述べた。そして彼はこう続けた。「本来、インターネットはグローバルなメディアだ。しかし今日、我々はiPlayerへの英国外からのアクセスを人為的にブロックしている。私に言わせれば、これは問題であり、業界が解決すべき大きな課題である。」

基本的にテレビ局は国や地域といった地理的な枠組みの中で周波数の割り当てを受けて放送を出すという認可事業なので、インターネットのグローバルな性質とはあまり相性が良くありません。もちろん海外メディアに番組を販売したり、国外のケーブルテレビなどを通じて自社チャンネルを運営したりしている放送局もありますが、そういう場合でも「アメリカでの放送権」を販売したり「日本でディズニー・チャンネルを開設したり」というように、多くの場合は「国」が単位になっています。

たとえばHuluは現地メディアと共同でローカライズされた各国版の配信サイトを立ち上げて国際化を図ろうとしているようですが(関連エントリー)、これはテレビ業界が伝統的に築き上げてきた国境のバリアを残したまま海外展開しようという作戦だと言えます。一方、Huggersが言っているのはネット上で人為的に地理的な障壁を設けてアクセスをブロックするようなことはやめたいということです。国を単位としたテレビのビジネスモデルがそう簡単に変わることはないでしょうが、それでもトップの人の意向というのはその会社の戦略に大きな影響を与えるものです。その意味で、iPlayerをはじめとするBBCのデジタル展開を統括する立場にある人が「国境の壁」を突き崩そうとしているかのようにも受け取れるこうした発言をしたことは注目に値するのではないかと思います。

*1:Huggersは、このブログでも紹介したことのあるAshley Highfieldの後を継いでこのポジションに就いた人です。マイクロソフト出身。