ネット動画と長尺CMの「まとめ視聴」

Ad Ageに、Huluによる広告実験についての記事が載っていました。Huluは、番組の冒頭に加えて本編の途中に数回30秒のスポットを流すというのを広告の基本パターンとしています。でも一部のコンテンツでは、この基本パターンの他に「2分程度の長尺CMを冒頭に流し、番組本編では広告が入らない」という形式でも広告を準備していて、その場合はどちらの形で広告を流すのかをユーザーが選択できるようになっています。そして、Ad Ageの記事によると(といってもHuluが発表したデータを元にしているようですが)、このような選択肢が与えられた場合88%という圧倒的多数のユーザーが本編の前にまとめて広告を見る方を選んでいるんだそうです。

最近取り上げたIBMのデジタルメディア使用に関するユーザー調査でも、「オンラインビデオの広告は本編の前か後に入れられるのが望ましい」という結果が多数を占めたということが紹介されていますが、(限られた機会とはいえ)実際にそれをサービスとして提供しているHuluから得られたデータには一層の説得力があるように感じられます。

もちろん、まとめて事前に広告を見る方が一般的に視聴者に好まれるとしても、それだけで長尺広告への移行が起こるわけではありません。まず、長尺広告といってもどれほどの長さまでであれば受け入れられるのかということを考える必要があります。Ad Ageで取り上げられているのは、30分程度の番組についてのケースです。Huluでは22分の番組に対して通常30秒のCMが4本(=計2分)入るので、その総計と同じ2分の長尺CMを冒頭に持ってきたらどうなるか、という条件下でデータが集められています。でも、プライムタイムのドラマなど、地上波では1時間枠で放送される番組の場合、本編は45分程度あるでしょう。単純に上のケースを2倍にすると、Huluで本編が44分の番組が流される場合、30秒のCMが8本(=計4分)入ることになります。合計4分のCMを事前に長尺広告としてまとめて見るか30秒のCMとして番組中に散りばめるかという選択肢が出てきた場合には、後者を選ぶ人の割合が増えるかもしれません。

また、広告を1か所にまとめてしまった場合には、その時間がちょっとした用事を済ませたりやトイレに行ったりするために使われる可能性が高まるのでは、という気もします。広告の位置がどこであれ、本当にその時間にユーザーがパソコンの前で広告を視聴してくれているのかということを測る術はありません。でも、広告の時間が30秒の場合と2分の場合、そして4分の場合では、視聴者がその間に取る行動に意外と大きな違いがある気がします。番組本編が始まるまでの時間が長くなればなるほど、席を外す人が増えるのはもちろん、たとえユーザーがパソコンの前に座ったままだとしても、おとなしくCMを見るのではなくメールチェックをしたり、FacebookTwitterを覗いてみたりといったことを行う人が増えてくるのではないかと思うのです。

このあたりの点を踏まえた上でなお長尺広告に視聴者のアテンションをつかむ効果があるとスポンサーが判断するのかどうかということが、長尺広告が今後広まっていくのかどうかを左右する大きな要因になるでしょう。