Huluがサラ・ペイリンのパロディービデオを国際配信

ひと月ほど前のエントリーで、NBCのコメディ番組「Saturday Night Live」で放送されたティナ・フェイによる共和党の副大統領候補サラ・ペイリンの物まねクリップがアメリカで大きな話題を呼んでいるということを紹介しました。この反響に気を良くしたのか、このサラ・ペイリンのコメディ劇はその後も続編が作られているのですが、Silicon Alley Insiderに「Hulu上のサラ・ペイリン・シリーズのクリップが海外でも視聴できるようになっている」という記事が出ていました。

オランダ、オーストラリア、イギリスなど複数の国で視聴できたと書かれていたので早速試してみましたが、日本からでもきちんと見ることができました。クリップをここに貼りつけようと思ったのですが上手くできないので、興味のある方はHuluの「Saturday Night Live」ページから適当なクリップをクリックしてみてください。サラ・ペイリン関連以外でも、いくつかのコンテンツは視聴できるようになっているようです。

サラ・ペイリン(のそっくりさん)とヒラリー・クリントン(のそっくりさん)が出演する最初に話題になったクリップは、NBCのウェブサイトでもHuluにもアップされているのですが、先日のエントリーを書いた時点では、Huluのものは米国外からは見られませんでしたがNBC.comにあるクリップは日本からでも視聴できました。なので、Huluがこのクリップの地理的なアクセス・ブロックを解除したからといってそんなに画期的なことではないのかもしれません。それでも、今回はおそらくHuluがコンテンツを自らグローバルに配信した初めてのケースです。そう考えると、これから徐々にでもこうしたケースが増えてくるのでは、という期待が高まります。

Huluのコンテンツが日本でも問題なく見られるせっかくの機会ですので、Huluのサービスですごいなあと思っていたことをひとつ紹介します。Hulu上のコンテンツはユーザーが自分のウェブサイトなどに貼り付けることができるのですが、その際に必ずしもその全編を載せる必要はなくて、その気になれば簡単に「開始点」と「終了点」を指定して面白いと思う部分だけを抜き出すことができるんです。本編が再生されている間に「embed(貼り付け)」ボタンを押すと出てくる画面に「Adjust the start and end times of the video 〜」という欄が表示されます。その下のカーソルを前後に動かすことで、貼り付ける映像の範囲(始点と終点)をユーザーが指定することができます。

貼り付け用のコードを見る限り、始点と終点を秒数で指定しているだけなので技術的にはそんなに難しくなさそうです。でも、これはコンテンツを一般のユーザーが編集する(極めて簡単な編集のみですが)、つまりプロが作ったコンテンツにユーザーが手を加えるのを許すということです。そして、この機能は今回紹介したようなショート・クリップだけでなく、Huluで1本丸ごと提供されるテレビ番組や映画にも対応しています*1。完成形の作品に強いプライドを持つ製作者側にしてみれば、作品を勝手にユーザーが切り刻んでしかもそれが個人のウェブサイトやブログに公開されてしまうということに対してかなり強い抵抗感があるはずです。だから、この機能を導入するためのハードルはかなり高かったのではないかと推察します。実際、僕がアメリカにいた時にHulu以外のネット配信サービスでここまでユーザーにコンテンツをいじる自由を与えたものはありませんでした。この機能はYoutubeにさえありません。だから、初めてHuluにこんな機能が加わったのを知った時には、随分と思いきったことをするなと驚きました。でも、ネットの世界ではメディア企業からユーザーへのパワーシフトが進んでいることを考えると、自らの総合的なビジネスに悪影響を及ぼさない範囲で可能な限りコンテンツのコントロール権をユーザーに明け渡すのは理に適った戦略です。ユーザーが始点と終点を指定してコンテンツを貼り付けられるという機能も、トータルで考えればユーザーへのアピール度を高めてコンテンツのリーチを最大化し、結果的に広告収入を増やすことにつながるという判断があったのでしょう。ここにも、ユーザー志向のサービスを追求することがひいては自らの利益につながるのだというHuluの信念が見て取れる気がします。

*1:「Hulu上のすべてのコンテンツでできる」と言えるかどうかは断言できませんが、長短含めてほとんどの作品に対応しているはずです