「イノベーションのジレンマ」をもとに地上波TVとインターネットTVを考える-2
それでは、テレビ番組の各種オンライン配信(合法的・非合法的なものをともに含む)について、それぞれが持続的技術と破壊的技術の観点からどのあたりに位置づけられるのかを考えて見ましょう。大まかに、次のようなグラフが描けるかと思います。
破壊的技術
↑ ・ユーザー同士によるファイル共有(P2P)
| ・YoutubeやYoukuなど、ユニキャストの動画共有サイトを
| 通じたアップロード、視聴
| ==<非合法ライン>=================
|
| ==<英米の主要放送局による破壊的技術の取り込み>==
| ・幅広いコンテンツホルダーを巻き込んだ合法的な番組提供
| プラットフォーム(CMつき、無料)の開設(Hulu)
| ・CMなし、無料の公共サービス型オンライン配信(BBC)
| ・自社の人気番組のみ提供するCMつき無料のオンライン配信
|
| ==<日本でのニッチな取り組み>===========
| ・Gyao(英米のモデルと同様のCMつき無料モデル)
| →優良コンテンツ不足
| ・ソニーのBranco(CMつき無料モデル)
| →フレッツ光の加入者のみを対象とした閉域サービス
| オンデマンドでの視聴不可
| ・アクトビラ(有料モデル)
| →対応テレビが必要
| アクトビラからはインターネットに接続できず
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| ==<日本の地上波テレビ局による取り組み>=======
| ・第2日テレ、フジテレビオンデマンド
| →人気コンテンツは提供されず
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| ==<ネット配信には目もくれないぞライン>=======
| ・放送のデジタル化に向けて一直線
↓
持続的技術
P2PやYoutubeなどを通じてテレビ番組などがきちんとした権利処理もされずに流通してしまうという問題は日本でもアメリカやイギリスでも同じですが、それに対する主要テレビ局の反応が大きく違っています。英米では、提供期間を限ったりダウンロードできないようにしたりという一定の制限をかけた上で、テレビ局がハリウッドなどの制作プロダクションと連携して、自分たちの最良のコンテンツをネットで無料提供しています。一方、日本ではそのような動きがほとんど見られません。
テレビ局を巻き込むことが出来ないGyaoやBrancoといったサービスは、コンテンツ不足に悩むことになります。いくらアニメや海外ドラマ、そこそこ人気の出たひと昔前の映画を並べたところで、「いま最も話題になっている旬のテレビ番組」が持つ吸引力にはとても及びません。よってこれらは、ビジネスモデルとしては破壊的技術を取り入れたものですが、今のままではニッチから主流に移行するには難しいでしょう。
ここで考えなくてはいけないポイントが2つあります。インターネットでの動画配信は、技術的な面ではすでにクリステンセンの言う「市場のローエンドで求められる性能」を軽く突破していること、そしてファイル共有やファイル交換を経験したユーザーはネット上で好きなコンテンツを好きな時間に見られる環境を求めているということです。技術的に可能で顧客ニーズがあるサービスに取り組むのかどうか。著作権制度の問題などがあるとはいえ、あとはテレビ局側の判断になります。
日本ではテレビ局が番組の著作権をがっちりと握っているため、オンライン配信に積極的に取り組まなかったからといって彼らの地位が急速に弱体化するようなことは起こらないでしょう。でも、いくら取り締まりを厳しくしてもファイル共有などを通じた人気番組のやりとりはなくならないでしょうし、またネット上で合法的に提供される番組が少なければ他のサービス(Youtubeの投稿ビデオ、オンラインゲーム、SNSなど)にユーザーが流れてしまい結果的にテレビ番組に費やす時間が減ってしまうといった可能性は十分にあります。だとすれば、やはり日本のテレビ局は破壊的技術であるインターネットの活用法をより真剣に考え、そして新たな取り組みを実行すべきではないかと思います。