NBCOlympics.comのオンラインビデオ広告収入
Wall Street Journalに、NBCがウェブサイト上で流したオリンピック関連動画の広告から挙げた収入を試算する記事が出ていました。元データはeMarketerが発表したものだそうです。それによると、NBCがウェブ配信したオリンピック関連動画から得た広告収入は575万ドル。NBCは今回の五輪の広告販売全体で10億ドルを越える売上をあげたと言われていますから、それと比べると、ネットから得た収入は微々たるものですね。
NBCの「テレビの人気種目は録画放送することになってもプライムタイムへ。そして、ネットに流すのはテレビの放送が終わってから」というテレビ重視の戦略のせいだということもあるのかもしれません。でも、これだけ広告費に差がつくと、このようにテレビを第一に考えるのもビジネス的には正当化できてしまう気がします。やはり、マス(大衆)に同時に物事を伝える手段としてのテレビの強さは、今だ健在なのですね。
ところで、eMarketerは五輪動画のストリーミング1回あたりの広告を1.5本、広告のCPM(1000回あたりの単価)を$50として資産しているそうです(上記WSJの記事より)。五輪最初の7日間でNBCは2560万回のストリーミングを提供したそうですから、1日あたり365.7万回。もしそれが大会17日間の平均だと仮定すると、大会全体では6217万回のストリーミングがあったことになります。単純にこれをベースに広告費を計算すると、
ウェブ配信による広告費=6217万(回)×1.5(本)×50($)÷1000=466万ドル
となります。冒頭の予想値が575万ドルでしたので、eMarketerの試算上はどこかで多少の積み増しがあったのでしょう。
通常、プライムタイムのテレビ番組(五輪などがない普通の時期)にCMを出すと、CPMは大体25〜30ドルぐらいだろうと言われています。そう考えると、五輪の動画広告に対するCPMは、かなりの高値がつけられていたことになります。それにも関わらず全体のウェブ広告費があまり伸びなかった原因としては、
(1)ストリーミング1回あたりの広告が少なかった
(2)ウェブ上での視聴回数が伸び悩んだ
ということが想定できるかと思います。1日あたり365万回という回数が少ないとは個人的にはあまり思えませんので、そうすると(1)が主な理由なのでしょう。おそらく、言い換えれば、競技全体の中継や録画(長時間に渡るのでCMの回数も増えるはず)ではなく数分程度のクリップや総集編などの方がよく見られたということなのかなと推察します。
<追記 8/26>
Media Postに、「北京五輪におけるNBCのオンライン戦略は失敗だった」という趣旨の記事が載りました。その中で、オンライン広告が575万ドルにしかならなかった理由として
○2000時間もウェブでのライブ・ストリーミング配信を行ったのに、人気競技など一部をウェブ配信から除外したこと
○配信をコントロールするため、ユーザーが映像クリップを自分のブログなどに貼り付けすることを禁じたこと
○五輪の映像クリップが掲載された外部サイトを厳しく取り締まったこと
などを挙げています。締め付けを強めすぎたために十分な視聴者を確保できなかったという意見です(僕が上に挙げた理由の(2)です)。
もっとウェブ配信を充実させるべきだったという考えには確かに一理あります(視聴者の立場からすると、その方がずっとありがたいのですから)。でも、ウェブ配信がNBCのテレビの五輪放送における視聴率を妨げなかったのだからもっとウェブでもたくさん配信すべきだったというような主張は、そのまま鵜呑みには出来ないと思います。「ウェブ配信での露出をある程度抑えたからテレビの視聴率に悪影響が出なかった」ということが今回の五輪の結果から読み取れますが、「ウェブ配信をバンバン行っても悪影響がでないのか」という点については結論が出せないからです。次回の冬季五輪でNBCがそんな実験をしてくれると、世界的な大イベントの視聴におけるテレビとウェブの関係がもっとよくわかるようになるんですけどね。