北京五輪〜オンライン配信に取り残される日本

北京オリンピックの開会式が始まりました。このブログでも何度か触れたように、中国中央電視台CCTV)は中国本土とマカオに向けた大会の「ニューメディア配信権」を獲得し、オリンピックの模様をテレビに加えてネットでも流すことにしています。Read Write Webの記事によれば、競技を丸ごと伝えたり、ハイライトやインタビューを伝えたりするコンテンツを合わせて計5000時間にも及ぶオン・デマンド配信を予定しているそうです。

(参考)CCTVの五輪サイトはここ(日本からの動画視聴はできません)

一方、アメリカでオリンピックの放送権・配信権を持つNBCもネットを使った配信に熱意を燃やしています。New York TimesによるとNBCは2200時間分の生放送をストリーミング配信し、競技の模様やハイライトはオン・デマンドで3000時間のアンコール配信を行うとのことです。前回のアテネ五輪の際にはオン・デマンド配信は計100時間にも満たなかったそうですから、この4年間で動画のネット配信がどれほど急速に普及したのかがわかります。

(参考)NBCの五輪サイトはここ(日本からの動画視聴はできません)

また、イギリスのBBCは、テレビで放送する主な競技の生放送をイギリス国内向けにウェブでも流すほか、オン・デマンドでハイライトシーンを視聴できるようにするそうです(BBCのプレス・リリースより)。きっと、2012年のロンドン五輪ではもっともっと大規模なオンライン配信が行われることでしょう。

(参考)BBCの五輪サイトはここ(日本からの動画視聴はできません)


翻って日本では、ネット上でオリンピックの動画が見たいと思ってもニュースやハイライトで我慢しなくてはいけないようです。例えば、BS1を中心にテレビでは完全な「五輪シフト」を敷いているNHKですが、ネット上で視聴できる動画はニュースクリップだけです(NHKの五輪サイトはここ)。それと比べると、民放各社が立ち上げた五輪サイトGorin.jpではハイライトのクリップが視聴できるので、その分動画が充実しています。ここは、「民放TV北京オリンピック公式動画」と銘打たれているように、日本の民放132社(そんなにあったんですね)が共同で開設したウェブサイトです。でも、「日本では今大会、初めてオリンピックをインターネットで『動画配信』します!」と赤い字で誇らしげに強調している割には、視聴できるのは3〜4分程度のクリップだけです。上に紹介したような他国の状況と比べると、明らかに見劣りします。

なぜ、日本ではネット上でオリンピックの動画をちゃんと見ることができないのでしょうか?CCTVNBCの取り組みを見れば、技術的な問題が原因でないことは明らかです。まず、ニュースクリップだけを載せるという選択は、おそらくニュース映像ならばネットに載せてもその分の料金をIOCに支払わなくて良い(もしくは非常に安価な追加料金で済む)というところから来ているのではないかと推察します。ハイライトのみというのも、その方がCCTVNBCが行うような本格的なオンライン配信と比べて費用面の負担がずっと少ないからでしょう。ネット配信に力を入れても金銭的に元が取れないと考えているのか(ちなみに、NBCの五輪サイトは、大会開始の4週間前にオンライン広告の85%がすでに売り切れたと報じられたほど企業の注目を集めているのですが・・・)、もしくはテレビの視聴者が奪われてしまうのを警戒しているのか。理由はともあれ、日本のテレビ局に顕著な「インターネット軽視」の態度が今回の五輪でも現れてしまいました。

「テレビでたっぷりと放送するんだから、ネットではニュース映像やハイライトのクリップを流しておけば十分だろう」という姿勢は、一理あるように思えるかもしれませんが、日本のテレビ局がいかに技術が発展するスピードに着いていけていないのかということを示しています。ブロードバンドの普及や映像圧縮・DRM技術の発達により、インターネットは動画を配信・視聴するプラットフォームとして急速に存在感を増しています。であれば、それを押さえつけようとしたり無視したりするのではなく、どのように活かしてコンテンツを配信するのかを考えるべきなのです。それはテレビ局にとって新しいビジネスチャンスの発掘にもつながりますし、視聴者サービスにもつながるのです。オリンピックの競技の模様をネット配信しないという日本のテレビ局の決断は、ネット配信とビジネスを結びつけ方を学ぶ機会を自ら逸したとともに、日本の視聴者の利益を大きく損ねる結果にもなりました。