ソニーのオンライン配信ビジネス

先日、ソニーが日本でパソコン向けのIPテレビ「branco(ブランコ)」を今月末から開始すると発表しました(CNETによる記事はこちら)。brancoの公式ページでは、「デスクトップに貼るテレビ」というキャッチフレーズが使われています。

特徴は、
○NTT東/西の光フレッツ加入者のみを対象にしたサービスであること
○オン・デマンドではなく、配信側が設定した番組表に応じて番組が提供されること
 (開始時点ではアメリカドラマ、バンダイ・チャンネル(アニメ専門)、ディスカバリーなど
  6チャンネルを用意)
○広告つきの番組を無料で提供すること
○専用のプレイヤーをパソコンにインストールして視聴すること
○番組を見ながら他のユーザーと会話できる「チャット機能」がついていること

などです。特に、広告についてはユーザーが住む地域や属性に応じて最適化された広告を流すというシステムがプレイヤーに内蔵されており、いずれは会員登録をする際に入力した個人情報に合わせてパーソナライズされた広告を流すことを検討しているといいます。

少しアメリカでの状況を考えると、ソニーはハリウッドのメジャー・スタジオの中で唯一、同じグループ内にテレビ・ネットワークを持っていません(ディズニー→ABC,パラマウントCBS,20世紀FOX→FOX,ユニバーサル→NBC,ワーナー→CW)。なので、アメリカではこれまでに何度か紹介しているHulu(NBCとFOXが共同で始めたテレビ番組やその他プレミアム・コンテンツのオンライン配信ベンチャー)にコンテンツを提供しています。それが、日本では自らオンライン配信のプラットフォームを立ち上げたというのは興味深いところです。

まだサービスが始まっていませんし、開始していたとしてもアメリカからは利用することができませんので、使い心地などを体験することは僕にはできません。でも、ウェブサイトを覗いた感じでは、ちょっとHuluを意識したようなシンプルで使いやすそうな画面構成になっているように見えました。広告つきのモデルを採用しているという点も、日本でこうした無料の配信方法が広がっていくかどうかを占う上で注目されるのではないでしょうか。

ただ、敢えてオン・デマンド方式ではなくテレビと同じような番組編成方式を採用したのはどうしてでしょうか。事前に見たい番組を予約しておいて時間になると教えてくれる「視聴予約」の機能はついていますが、番組を録画したり、あるいは見逃してしまった番組を後で視聴することはできないようになっています。イギリスやアメリカでは「見たい番組を見たいときに見る」のがオンライン配信の大きな利点になっていることを考えると、これはかなり不便なのではないかという気がします。また、利用できるのがNTTの光フレッツ加入者のみ、という点も利用者を限定してしまう要因になります。MM総研の調査によると、NTTの光回線は2007年9月時点で742万件の加入者を抱えているそうですが、同じ調査で2008年3月のブロードバンド契約件数は3000万強になると予測しています。brancoは、ブロードバンド加入者全体の1/4程度を対象にしたサービス、ということになります。約750万件という対象数が多いのか少ないのかはよくわかりませんが、その全てがbrancoのユーザーとなる訳ではないこと、また登録ユーザー数が1000万人を超えたと言われるGyaoでも赤字続きと言われていることを考えると、広告収入に依存するメディアである以上そのサービスを使うことのできる(実際に使うかどうかは別にして)ユーザー層は可能な限り広げておいた方が賢明だと感じられます。将来の戦略については何も触れられていませんでしたが、もしかしたらbrancoも利用者数の伸び具合を見ながら、やがてはNTTの光回線契約者以外にもターゲットを広げていくのかもしれません。

日本では放送局がオンライン配信に消極的である以上、放送局以外の有力なコンテンツ製作者であるソニーバンダイが協力してbrancoのような取り組みを始めるのは歓迎すべきことです。ユーザーがオンライン・メディアの便利さを実感するようになれば、そこから放送局へのプレッシャーが生まれるかもしれませんし、brancoが順調に成長していくようであれば放送局の側でも広告つきの無料オンライン配信を新たなビジネスチャンスとしてとらえるようになるかもしれません。3/31の本サービス開始まであとおよそ1週間ですが、brancoがユーザーににどのように受け入れられるのか、楽しみです。