リテール・ビジネスとしてのオンライン配信

以前のエントリーでオンライン・ビデオやビデオ・オン・デマンドの利用者数や市場規模を分析したリポートがアメリカやイギリスではたくさん出てきていることを紹介しましたが、今度はScreen Digestが小売産業としてのオン・デマンド産業成長を予測する報告書を発表しました。報告書自体は有料なのですが、その要約を彼らのウェブサイトで読むことができます。

それによると、「オン・デマンド・メディア」のアメリカとヨーロッパの主要国における市場規模は今年の3300万ドルから2010年には11億ドルへと成長し、しかもそのうちの4.3億ドルがDVDセールスから奪い取る収入なのに対し、残りの6.7億ドルは新しい種類の収入になるだろうと予測されています。

「オン・デマンド・メディア」の定義がきちんと書かれていない(文脈からすると、おそらくオンラインだけでなくケーブルテレビ上のVODなども含んでいると思えます)こと、また市場の区切りが「アメリカとヨーロッパ主要国」とされていることから、どうも曖昧さの感じられるリポートだなという感は否めません。また、オン・デマンドが単なる既存メディアの置き換わりではなく新たな収入を生み出すものだという主張は注目に値しますが、新たな収入源としてのオン・デマンドの利点として挙げられているのが「(CDショップやレンタルビデオ店と違って)陳列スペースの制約を気にしなくて良いので数多くのコンテンツを取り揃えることが出来る点」「消費者が自分の好みに応じて独自のコンピレーションでコンテンツを視聴・購入できる点」だけ、というのも、オン・デマンド・メディアから得られる収入の6割以上が新たな収入だとする根拠としては弱いように感じられます。

ただ、リポートの中でAmazon.comが挙げられていたように、アメリカではiTunesAmazonが映像コンテンツのオンライン有料販売(ダウンロード)が行っていて、かなり充実したテレビ番組や映画のラインナップを取り揃えています。テレビ番組で言うと、これはネットワーク局が自ら運営する広告つきの無料オンラインVODと競合関係にある一方で、協力関係も成り立っています。例えばHuluでは流したコンテンツ(ドラマなど)の末尾で「購入したい場合はAmazonのサイトへどうぞ」といった案内がでます。ネットワークのVODは基本的にストリーミングのみなので「自分のもの」にすることはできません。また、最新シーズンのドラマやコメディのエピソードは基本的に直近5回しか見られないため、きょう見られたものでも数週間後にはなくなっている(あるいは2分程度の要約版しか見られなくなっている)ことも珍しくありません。その点、有料販売しているiTunesAmazonは同じ番組でもずっと多くのエピソードを取り扱っています。だから、無料で見させた後に「気に入ったら買ってね」というお知らせを出すのは理に適った方法だと言えます。無料のオンラインVODだけでなく、有料のオンラインVODでもアメリカは日本よりもずっと先を行っています。

さらに、アメリカで700万人近い顧客を抱える、オンラインDVDレンタルのNetflixも「オン・デマンド・メディア」に含めることが出来るかもしれません。この会社は、最近日本でもツタヤなどが始めた「ネット上で見たいビデオを指定するとそのDVDが郵送されてくる。期間制限はなく、見終わったら送り返す」という制度でレンタルビデオ業を始めた草分けの会社で、最近はDVDだけでなく、オンラインで作品自体が見られるVODのサービスにも取り組んでいます。アメリカで一番充実したドキュメンタリー作品のライブラリーを持っているのはNetflixだと言われるように、ロング・テールの作品に関しては圧倒的な強さを持つ会社です。

こうした形でのオン・デマンドをすべて含めれば、それは確かに大きな市場を作り出すことになるのかもしれません。ロイターがAdams Media Researchという会社が行ったDVDの売り上げ調査を報じていますが、それによると、アメリカでの2007年のDVDセールスはユニット数で前年比マイナス4.5%と、初めての大幅な減少となったそうです。また、売り上げも2006年の165億ドルから2007年は157億ドルまで下がったとのこと。ブルーレイの導入でDVDの落ち込みをカバーしつつ、新しい収益源としてオン・デマンド形式の配信に注目している、というのがハリウッドなどの今の姿勢なのでしょう。