インターネットが配信ビジネスに与える影響 -2

ネット上でお金を払わずに視聴できる海賊版コンテンツが爆発的に広がってくるにつれて、映画会社やテレビ局などもただ訴訟を起こしたり画像投稿サイトにプレッシャーをかけたりするだけではなく、自分たちのウィンドウ戦略を見直さなくてはいけなくなってきました。コンテンツをなるべく早い時期に、自分のスケジュールに合わせて、そして安く(理想的には無料で)見たいというニーズに何らかの形で応えなければ、ユーザーは海賊版に流れてしまうからです。

このような状況の中、コンテンツ・ホルダーが取って来た戦略は大きく3つに分けられます。まず、ウィンドウ戦略の枠組みを維持しつつ、ひとつのウィンドウから次のウィンドウに移るまでのタイムスパンを短くすることです。たとえば、以前は映画がDVDになるまで半年ぐらいかかっていましたが、今では公開から3ヶ月ほどでDVD化される作品が多くあります。また、映画の「世界同時公開」が増えてきたのも海賊版対策が一因だと言えますし、アメリカで制作されるテレビドラマがシーズン1からほとんど時差なしで海外(主にイギリスやオーストラリアなどの英語圏)でも放送されることも増えてきました。いずれも、海賊版にお客を取られてしまう前に正当なコンテンツをリリースして自分たちに回ってくる収益を増やそうとする狙いがあります。

次に、ケーブルテレビや、最近では電話会社によるテレビ配信事業が行うオン・デマンドサービスにコンテンツを提供するという方法も取られています。およそ6割の世帯がケーブルテレビを通じてテレビを見ているアメリカでは、コムキャスト(Comcast)やタイム・ワーナー(Time Warner)など有力なケーブル運営会社が大きな存在感を持っています(最大手のコムキャストは2400万もの加入者を抱えています)。ただ、ディレクTVなどの衛星放送との競争に加えて近年はAT&Tベライゾン(Verizon)といった通信会社がテレビ配信に参入してきたので、各社ともテレビのチャンネルを放送するだけでなく、加入者に向けた独自のオン・デマンドサービスを充実させて顧客を呼び込み、つなぎとめることに必死です。例えば、コムキャストは9000以上のオン・デマンド作品を取り揃えています。

コンテンツをユーザーに送り届ける「パイプ」の役割を果たす会社が作り上げたオン・デマンドに参加することにより、映画会社やテレビ局はコンテンツへのアクセスを制限したままで(ケーブルテレビなどへの加入者しか見られない、またプレミアムコンテンツは加入者の中でも有料チャンネルに登録していたりペイ・パー・ビューでお金を払ったりした人しかアクセスできないというように)時間の制約からはそのコンテンツを解放することができます。収益はもちろんパイプの運営会社と分け合うことになりますが、この方式では、自らオン・デマンドや課金のシステムを構築することなく安全な形でコンテンツのオン・デマンド配信を行うことができます。

長くなったので、3つめのケースは次回書くことにします。