「ライブ」化する雑誌

ラジオ番組、アルジャジーラなどのニュースチャンネル、そしてUSTREAMなど、映像や音声を映像をナマで配信する「ライブストリーミング」は大分と一般的に行われるようになりました。でも今日紹介するのは、雑誌をナマで作ってしまおうという「ライブマガジン」の試みです。

世界の各地で独自に行われているTEDxイベントのひとつ、TEDxMaastrichtが最近開催されました。Maastrichtは、EU誕生の契機となった「マーストリヒト条約」でその名を知られるオランダの都市です。このTEDxは、ちょっとした話題になりました。Live Magazinesという地元オランダの企業*1と手を組んで、イベントの模様をその場で雑誌形式のコンテンツにしてウェブで公開するという試みを行ったからです。

そのウェブマガジン(これは英語で書かれています)がこちらです。
http://www.livemagazines.nl/Edities/tedxmaastricht/

僕はTEDxMaastrichtの模様やそれがウェブマガジンとして出来てゆく様子を同時に見ていた訳ではないので、実際にどの程度「ナマ」で雑誌が作られ、公開されていったのかはわかりません。でも、このウェブマガジンを読むとわかるように、スピーチの要約や参加者の声、会場の写真に加えて、イベントの様子をストリーミングで見た人のツイートなども含まれていて、「ライブ感」がしっかりと詰まった内容になっています。

巻末にあるLive Magazines社についての案内ページで5人の写真が載っているので、それぐらいの人数で作ったのでしょう。同じページにある"This is how we work"の部分を引用します。

イベントや会議で、ライブ・マガジンの編集チームがその時・その場で唯一無二の雑誌を作り上げ、それをゲストやスポンサー、取引先などに配布することができます。経験を積んだデザイナー、記者とカメラマンからなる編集チームが、イベントの熱気や進行の模様を豪華な雑誌に仕上げます。

これはものすごく興味深い取り組みだと思います。「雑誌」と「ウェブ」の組み合わせはありますが、それに「ライブ」という要素を加えるとこうなるのかと強い印象を受けました。コロンブスの卵のようなもので、言われてみれば確かにこういうのも有りだなという気がしますが、これまで自分はこんな取り組みを見たことがありませんでした。

また、ビジネスとしての可能性という点でも面白いのではないかと感じます。イベントや会議の参加者に印刷したものを配り、ネットを介してウェブストリーミングなどで見ている人に対してはウェブ上でマガジンを公開するといった使い方はもちろん、例えば結婚式などで利用しても大いに受けるでしょう。

こうしたライブ・マガジンの取り組みを成功させるための最大の鍵は、有能な編集者の存在だと思います。写真や文章の良し悪しももちろん重要ですが、膨大な写真やインタビュー、講演内容などから限られた時間で内容を取捨選択し、構成を決め、流れを作る作業が、そのライブ・マガジンを面白く・読みやすくする上で決定的に大事になるからです。

例えば、いくらプロが撮ったものとはいえ、結婚式のVTRを未編集で延々と見せられたり、写真を全て広げられたりすれば、本人や親などごく限られた人以外は途中で嫌になってしまいます。でもその素材がうまく取捨選択され、構成され直した上で適度なボリュームで提示されると、感動的なものに仕上がります。
「ライブ・マガジン」は、イベントの開始と同時に制作を始めてイベントが終わるまでに完成させるという、極めて短い時間の中でこうした編集を行う取り組みだと言えます。「ライブ」という言葉から想像される、「その場を、そのまま」というイメージとは少し意味合いが異なりますが、雑誌としての編集機能を残しつつ、イベントと同時進行で作品を完成させていくというのは、とてもチャレンジングで、しかもワクワクする試みです。出版不況により編集者の仕事が消えていく−何ていう話を時々耳にしますが、編集のスキルが生かせる場所は従来型の紙媒体の出版物だけではありません。こんな分野でも、編集者の方たちにどんどん活躍してほしいと思います。

*1:恐らくはベンチャーだと思います。ウェブサイトがこちらにありますが、オランダ語で書かれているので、Google翻訳などで読みとれる範囲しかわかりません。