「60 Minutes」に見るテレビ・ジャーナリズムの極意

アメリカを代表する報道番組であるCBSの「60 Minutes」で、番組の創設者であり名物プロデューサーでもあったドン・ヒューイット(2009年夏に逝去)の功績を振り返る特集"60 MINUTES Presents: a Tribute to Don Hewitt." が最近放送されました。すごくいい番組だったのでここで紹介します。「60 Minutes」のウェブサイトで番組を丸ごと視聴することもできるので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。

http://www.cbsnews.com/video/watch/?id=6144356n&tag=cbsnewsMainColumnArea.2

「60 Minutes」は1968年に放送を開始したマガジンスタイルのドキュメンタリー番組です。1回の放送で大体3つ程の企画が取り上げられ、取材チームが様々な時事問題を追求していきます。2004年に引退するまで35年以上に渡って製作者としてこの番組に深く関わって来たのがドン・ヒューイットです。

番組では、豊富に残るドン・ヒューイットの映像を使いながら、レズリー・ムンバス(CBSのCEO)や現ソニーのCEOであるハワード・ストリンガー(CBSニュースの元社長)*1などのインタビューも交えて、「60 Minutes」にかける彼の熱意や番組制作スタイルなどを紐解いていきます。

どのシーンに出てくるヒューイットを見ても、本当に楽しそうに仕事をしているのが画面を通して伝わって来ます。彼の特徴ある口調で "perfect!"とか"sansational!"なんて褒められたら部下は本当に嬉しくなるのではないかと思うのですが、ヒューイットが番組制作でこだわったモットーは「Tell me a story」という極めてシンプルなものだったそうです。「ストーリー」。話を作り上げるという意味で使われているのではありません。何が起きたとか、そういう「事柄」にこだわるのではなく、その裏にあるさまざまな事情や言い分、人々の想いに焦点をあてた番組づくりをしようということです。番組終盤でヒューイットがこんなことを言っているのがとても印象的でした。

私は、事象に興味を持ったことはこれっぽっちもない。知りたいのは、そうした事象に何らかの影響を受け、それに対処しようとしている人々の話(スト―リ−)だ。そのストーリーをかみ砕いて伝え、視聴者がそれを理解し飲み込めるようにするのが私たちの仕事なんだ。*2

「60 Minutes」を見ていて、よくここまで突っ込んだ質問をするものだと感じさせられることがよくあるのですが、それは単にアメリカの文化的なものから来るのではなく、こうした確固たる信念がスタッフに受け継がれているからでもあるのだろうな、と思いました。そして、放送開始から40年以上が経つ今でも「60 Minutes」がアメリカの週間視聴率トップ10の常連であるという事実が示しているように*3、この番組のスタイルや内容はアメリカの視聴者に強く支持されているというのも忘れてはならないポイントです。ストーリーを追うことは新聞にも雑誌にもラジオにもできますが、そこに映像が加わると格段に説得力が増すのです(今回の番組中に出てくるモハメド・アリのシーンなどを見るとそのことが感じられるのではないかと思います)。

事象にとらわれすぎることなく、その背後のストーリーにも目を向けること。そして、そのストーリーを映像と組み合わせて視聴者に届けること。今回取り上げた「60 Minutes」のエピソードは、テレビ・ジャーナリズムの黄金時代を振り返るだけでなく、今後にもつながるヒントをも伝えてくれている気がします。

*1:ハワード・ストリンガーは、CBSでテレビ・ドキュメンタリーの製作者として30年以上勤めた経験を持つジャーナリストでもあります。

*2:原文:"I have never had the slightest interest in an issue. I only want to get stories of people dealing with issues, whose lives are affected by the issue, and we narrow them down to bite-sizes, where you could understand it and digest it. "

*3:ちなみにNielsenのデータ(こちら)によると、1/25〜週の「60 Minutes」は視聴率第7位