Youtubeといぶし銀コンテンツ

最近、Youtubeがネット上での映画の有料レンタルを始めるという報道がありました(CNET Japanの記事などを参照)。対象は、サンダンス映画祭の昨年・今年の参加作から5本だそうです。ほぼ同時期に、Youtubeがインドのクリケット・プレミア・リーグ(Indian Premier League, IPL)の試合をライブ配信する契約を結んだというニュースも報じられています。Guardianの記事によると、IPLのアメリカを除く全世界での配信権を得たそうです。「超メジャーとは言えないけれどプロが関わっているコンテンツ」を取り込もうとするYoutubeの動きは、非常に興味深いものです。

こうしたコンテンツの微妙な位置づけを、クリケットの件を伝えるLA Timesの記事が上手く表現しています。

The good news for sports fans: YouTube will be showing a series of major matches, live, on the online site. The bad news: The sport is cricket.

一級品だけど誰もが興味を抱く訳ではない、でも好きな人にとっては堪らない魅力を持つコンテンツとでもいったところでしょうか。こうした言わば「いぶし銀コンテンツ」とYoutubeはすごく相性が良いのではないかという気がします。

一時期、YoutubeCBSと番組の配信契約を結ぶなど、メジャーなコンテンツを配信しようと力を入れていました。この取り組みはその後あまり大きな広がりを見せるには至っていませんが、それはやはり、テレビ局などがYoutubeに対する警戒心を(弱めてきたとはいえ)捨て切れていないからではないかと思います。例えば、いくらYoutubeがコンテンツIDシステムなどで権利者の意向を反映させようとしても、人気番組などではコントロールが完全には追いつかないところでユーザーによるアップロードと視聴が行われているように見受けられます*1。是非はともかく、人気番組などメジャーなコンテンツは、Youtubeが公式配信しなくてもユーザーが自発的に(多くの場合「無許可で」でもありますが)Youtube上で広めるのです。Youtubeはこうした「何でもあり」に近いごった煮状態が魅力の源泉ですから、コンテンツの露出を整然とコントロールしたい側と考え方に相違が生まれやすいという面はどうしても出てくるでしょう。

でも、あまりメジャーでないコンテンツ(いぶし銀コンテンツ)にとってはバイラルな広まりというのはそうそう期待できるものではありません。一方、こうしたコンテンツは公式に配信のための権料が比較的安く済み、多くの場合いくらかコントロールを犠牲にしても露出を増やしたいという熱心さを持ち合わせています。であれば、Youtubeが自ら行う取り組みとしては、もともとメジャーなものを公式配信するよりもいぶし銀コンテンツに力を入れていった方が双方のメリットが大きいように感じるのです。

今回のような事例がもうひとつ示しているのは、Youtubeが最近コンテンツの「目利き」としての機能を果たし始めているということです。もともとYoutubeはそこにコンテンツを載せるのも、それを見るのも、広めるのもユーザーでした。Youtubeが提供するのは「場」だけだったのです。テレビ局や制作会社などがプロモーションの手段としてYoutubeを使うようになってからもその構造は基本的に変わっていません。コンテンツを載せるのがユーザーとして登録したテレビ局や制作会社になったというだけです。でも、サンダンス参加作やクリケット試合の配信からは、Youtubeが自らのプラットフォームに載せるコンテンツを選ぶ「主体」としても動き始めていることが感じられます。

「場」から「主体」へ、という単純なシフトではありません。あくまでユーザー主体の「場」としての存在を"100"のうち"97"は残しつつ、あとの"3"で「主体」としてコンテンツを選んでいくといったイメージでしょうか。動画配信プラットフォームとしてのYoutubeの集客力があまりにも大きいため、Youtubeにとっては"3"でも動画のネット配信という業界には大きなインパクトを持つのです。Youtubeが主体として動く際の視点が今後どうなっていくのかはわかりませんが、それがメジャーなコンテンツよりもいぶし銀コンテンツに向けられていくのなら、Youtubeの魅力はさらに増していくのではないかという気がします。

*1:あくまで個人的な印象ですが。