売りに出されるBusiness Week

Business Weekの親会社McGraw-Hillが、この雑誌の売却先を探しているそうです。Ficancial TimesSilicon Alley Insiderなどは、なんと売値は「1ドル」ということもあり得るのではないかと報じています。この雑誌の今の赤字状況や短期間に収益力を向上させる見通しの厳しさなどを考慮すると、極めて安い値段にしないと買い手が現れないのではないかということのようです。

Business Weekは、Economistと並んで英語圏を代表する週刊のビジネス誌です。Economistの方が格上という見方をされることが多いのですが、個人的にはBusiness Weekの方が好きです*1。なので、このようにほとんど投げ売りのような形で売却が検討されているという話を聞くのはとても残念です。

Business Weekの良いところは、妙に気取ったりせずにストレートな文体で読みやすい記事を書いてくれる点や、メディアやテクノロジー関係の話題を積極的に取り上げてくれる点などにあります。でも、それに加えて僕がいちばん気に入っているのは、ネットを使ったコンテンツの配信が充実しているところです。

主要記事を丸ごとネット配信するのはアメリカやイギリスの新聞では珍しくありませんが*2、それと比べると雑誌は、ある程度はネット上で記事を掲載しているところもあるとは言え慎重な姿勢を取っています。その中でBusiness Weekはかなり思い切った記事のネット掲載を行っています。Business Weekのサイトをご覧になるとわかるかと思います。

さらに、Business Weekは、ポッドキャスティングを利用した音声でのコンテンツ配信にも積極的です。その週に発行された号のカバーストーリーを書いた記者を読んでホスト役の人が取材の裏側などを聞く「Behind This Week's Cover Story」を始め、「Innovation of the Week」やIT系の話題を紹介する「Tech & You」といったタイトルのポッドキャスティングがあり、各部門のエディターが毎週興味深い話を聞かせてくれるので、情報性が高くとても参考になるのです。また、同じくポッドキャスティングを行っている新聞や競合雑誌などと比べて、Business Weekは文字(記事)と音(ポッドキャスティング)とのネット上での組み合わせ方が上手だというのもいつも感じるポイントです。例えば僕はここのポッドキャスティングで面白そうな話題を耳にしてBusiness Weekのサイトで記事を読んでみる、という使い方をよくしているのですが、記事とポッドキャスティングがお互いに関係していながらも内容が被り過ぎることなく、また後者が前者を読み上げるだけに留まることもないという巧みな作り方はあまり他社では見かけません。Business Weekは、ネットのことをよく理解している人が記事のネット掲載やポッドキャスティングなどを手掛けているなという気がするのです。

残念なのは、このようにネットを上手に利用してユーザー本位のサービスを展開してきたにも関わらず、それが収益に結び付かなかったということです。Business Weekが苦境に陥った原因は、主に紙媒体の広告収入が減ったことだと言われています。実際、業界団体であるMagazine Publisher of Americaのデータ(こちら)によると、今年1〜3月期のBusiness Weekの広告収入は昨年同期から37%も減っていることになります(ちなみに同時期のEconomistはマイナス11%)。それでは、いかに発行部数(90万部強)が減っていないとしても受けた打撃は計り知れません。

「ネットを上手に取り入れないメディアは競争に取り残されるけれど、ネットを上手く活用したからと言って必ずしも成功が保証されるわけではない」ということを、Business Weekのケースは非常によく示していると思います。メディア企業にとってはそこが大きなジレンマとなるのでしょうが、それでも、非常に道が困難だということを十分に承知した上でなおネットと向き合いながら進む方向性を探るのが、生き残る可能性が最も高い道なんだろうなと思います。Business Weekの今後のオーナーがどうなるのかはわかりませんが、伝統ある雑誌として、また革新的なウェブサービスの提供者として、これからも何とかして今の道を歩み続けてほしいと願っています。

*1:といっても、どちらかもお金を払って購読している訳ではないのですが。

*2:最近はネット上の記事を有料化しようとする動きもありますが。