"Life's for Sharing"に見るリアルとネットの反響拡大ループ

全然新しい話ではないのですが、"When Consumers Help, Ads Are Free"というNew York Timesの記事(こちら)を読んで、初めてイギリスの携帯キャリアT-Mobileの"Life's for Sharing"という広告キャンペーンのことを知りました。この記事には、ユーザーが自発的に口コミで広めてくれるような広告であればコストをかけずにブランドやメッセージを広めることができるといったことが書いてあって、それはもっともだけど当たり前のことだよなと読みながら思ったのですが、実際にT-Mobileの広告を見て「これは確かに記事にするほどインパクトのあるキャンペーンだ」と理解しました。

"Life's for Sharing"のキャンペーンの第一弾は、今年1月に行われました。ロンドンのリバプール・ストリート駅の構内で数百人が突然踊り出し、その模様をそこに居合わせた一般の利用客の様子とともに撮影した動画がテレビやウェブで流されました。こちらです。

それが大評判となり、キャンペーンの続編が展開されていきます。当初の段階でT-Mobileや広告を制作した代理店(Saatchi & Saatchi London)がどれ程の規模・スパンでこのキャンペーンを行っていこうと考えていたのかはわかりませんが、「第二弾」への持って行き方が実に見事です。

4月下旬に、T-Mobileは「今月30日の18時にトラファルガー広場に来れば、あなたも次のイベントに参加できる」という広告を打ちます。それがどんなイベントなのかは全く明かさない広告です。

そして、4/30に広場に集まった13500人が参加したのが「Hey Jude」の大合唱。"Life's for Sharing"キャンペーンの第二弾です。

駅でのダンスも曲の大合唱も一般の人々を参加者として巻き込んだことには変わりありませんが、前者がたまたま居合わせた人だったのに対し、後者は企業側から事前に参加を呼びかけて集まった人たちだという違いがあります。最初の広告で「こんなに面白いことがあった」(あるいは「あったらしい」)という口コミが広がってキャンペーンが注目を集め、広告が流れたことにより「次にまた何かやるらしい」という話が広がり、2回目の時には主体的に参加した人の数が飛躍的に増えてさらに口コミの効果が強力になったのではないか、というきれいな流れが自然と思い浮かびます。

また、2回目のイベントの会場としてトラファルガー広場を選んだというのも上手いところです。この広場はロンドンの中心部にあるというだけでなく、ネルソン・マンデラがイギリスを訪れた時にはここで市民に向かって演説し、ロンドンがツール・ド・フランスのスタート地点になった時にはここで開会式が行われたというように、極めてシンボリックな場所です。トラファルガー広場ではお祭りのようなイベントもよく行われていますが、ここが会場に選ばれるということはそれがロンドンで最重要クラスのイベントであることを示す何よりのサインとなります。

そしてイベントで歌われたのが、これまたイギリスのシンボルといえるビートルズの「Hey Jude」。盛り上がらないはずがありません*1

さらには、"Life's for Sharing"というブランドYoutubeに専用チャンネルを設けて(こちら)ダンスのメイキングや各キャンペーンに参加した人々の声などを動画で配信したり(6/23時点で722の動画があります)、イギリスの各所で合唱(Sing Along)のイベントを開催することにしたり(詳細はこちら)と、さまざまな方法でキャンペーンのリーチを広げようとしています。

このように、T-MobileとSaatchi & Saatchi Londonは「リアルな参加体験」と「動画による疑似体験」、そして「ウェブの伝播力」を巧みに使ってキャンペーンを大成功に導きました。この3者の組み合わせは、マーケティングを行う上で非常に大事なのかもしれません。特に注目すべきは、このキャンペーンがリアル→ネット→リアル→ネットとループしながら反響を広めていったことです。リアルとネットの組み合わせというのはそんなに目新しいことではないかもしれませんが、このように双方で拡大再生産をしながらキャンペーンを盛り上げていくという手法は、とても参考になるなと感じました。

*1:他の人の曲も歌われたようですが。