以前取り上げた話題の「その後」

「こんな面白いことが起きてるんだ」と思ってここで紹介したサービスや取り組みでも、忙しかったり他のことに気を取られたりで、その後の動きが十分にカバーできていないことがままあります。今回は、以前に書いたエントリーの中からそんなものをいくつか取り上げて、今はどうなっているのかということを見てみたいと思います。


「IBMのデジタル・メディア調査」(2008/11/27)
このエントリーでは、デジタル技術がエンターテインメント・コンテンツへのアクセス方法に与える影響についてのIBMの調査結果が発表されたということを書きました。そこではデータをより深く分析したリポートが近々出されると書かれていたのですが、「Beyond advertising: Choosing a strategic path to the digital consumer」と題されたリポートが今年の3月ごろに出版されています(こちらから全文、もしくはサマリーにアクセスできます)。ちゃんと読んでから紹介しようと思っているうちにどんどん時間が過ぎ、そのままになっていたのですが、これはDr. Saul J. Bermanなどがメディア・エンターテインメント業界の地殻変動を分析するIBMのリポート・シリーズ(関連エントリー)の最新作です。今回もメディア企業とユーザーの関係についての鋭い指摘がなされていますので、興味のある方は、サマリーだけでも読んでみてください。


「任天堂の動画配信」(2009/1/9)
Wiiの間」のサービスは5月から始まっています(こちら)。ただ、今のところはあまり大きな話題にはなっていないようです。広告収入の減少に伴う予算削減などでテレビ局の番組制作力が低下する中、任天堂が新たな資金供給源として、また新たなコンテンツ配信&視聴プラットフォーム(Wii)の提供者として映像コンテンツの分野で存在感を増すことにつながるかもしれないと予測していたのですが、現時点ではそこまでは至っていないようです。

ただ、DSと組み合わせてダウンロードしたコンテンツを持ち運べるようにもしている点や、民放に加えて共同テレビテレビマンユニオンなどの有力プロダクションや電通なども参加している点*1などを見ると、今後勢いを得ていく可能性はあるかと思います。


「オンラインビデオの『目利きサイト』誕生」(2009/2/19)
このエントリーで取り上げたサイトeGuiders.comを久しぶりに訪れてみました。目利き役の人は増え、扱われているコンテンツも量も増えていたけれど、頻繁にチェックしようと思うほどのサイトにはなっていませんでした。動画のコメント欄にほとんど反応がないところをみると、恐らくは同じように感じている人が多いのではないかと思います。

ネット上に数え切れないほど存在する動画の中から面白いもの、見る価値のあるものを選んでくれる「目利き役」を作るというのは、以前も書きましたが、面白いアイデアだと思います。ただ、僕の見るところ、eGuidersの弱点はユーザーを安心・信頼させるだけのネームバリューを持つ目利き役の不在(もしくは不足)にあるのではないかと思います。いくら役者やプロデューサー、作家などが名前を連ねていても、ただプロであるという肩書だけでは「この人が薦めるものならば見てみよう」と思わせるには不十分です*2。また、紹介されているコンテンツや個々の目利き役に対するユーザーからの評価(この動画は5つ星、この目利き役は信頼できるなど)なども欲しいところです。そうすることにより、一般のユーザーは複数の基準を参考にしてどのコンテンツが面白そうなのかを見極めることができるからです。eGuidersには引き続き期待をしていきたいと思います。


「ネット上に無料の大学が」(2009/3/10)
イスラエル出身の起業家がアメリカをベースに開校の準備を進めているネット上の無料の大学*3University of the Peopleは、現在学生の募集を進めています。秋学期に向けた出願の締め切りは6/30とのことです。学部レベルのBusiness AdministationとComputer Scienceを選考する2つのプログラムが準備されています。ネットが使える環境にあり、ある程度の英語ができる人であれば誰でも出願できますが、高等教育機関としての認可(Accreditation)はまだ得られていないそうです。なのでこのままの状態が続くようであれば、仮に卒業に必要な単位を全て取ったとしても、アメリカで広く認められるような学位号を得ることはできません。大学側でも引き続きAccreditationの取得に向けて動いていくそうなので、1年後、2年後にどうなっているのかはわかりませんが。授業のカリキュラムや授業料が無料であるところにはとても惹かれるのですが、もし仮にここに入学したとして、それ用の勉強に割けるだけの時間を十分に確保できるのだろうかと考えると、ちょっと足踏みしてしまいます。でも、各国にいる生徒たちがネットを介してどのように教育を受け、学習を進めていくのかというのは興味深いところです。

今回は4つの話題の「その後」を紹介しました。ついつい新しい方へ自分の知らなかった方へと目が向いてしまいがちですが、このような振り返りも時には行っていこうと思います。

*1:ウィキペディアでの「Wiiの間」の項目を参照

*2:僕はアメリカの映画監督やプロデューサー、役者の名前などに疎い「外人」なので、必要以上にそう感じているのかもしれませんが。

*3:出願費、試験費などで多少の出費はあるようですが。