Disney-Hulu連合のインパクト

DisneyがHuluに参加することになったというニュース(昨日のエントリーを参照)はアメリカのメディア業界でも大きな話題になっていて、この件についての意見や分析がいろいろな記事やブログに載っています。それらを参考に、DisneyとHuluが手を結んだことがアメリカの動画ネット配信ビジネスにどのような影響を及ぼし得ると捉えられているのかを紹介します。

Youtubeへの大きな打撃となる。
これは各所で書かれていることですが、まさにその通りです。Youtubeは広告収入を増やすために最近テレビ番組などプロが制作したコンテンツを重視する姿勢を鮮明にしてきました。でも、今回の提携によりYoutubeがABCの人気コンテンツを手にできる可能性は閉ざされてしまいました。プロの手によるコンテンツを配信するプラットフォームとして、HuluとYoutubeの間にはさらに大きな差がついたことになります。


○ケーブル・オペレーターにとってはありがたい話である。
CNETの記事では、今回の合意でHuluとともに勝者と呼べるのはComcastTime Warner Cableなどのケーブル・オペレーターかもしれないという見方が紹介されています。アメリカ4大TVネットワークのうち3つまでがHuluと提携したので、ケーブル・オペレーターはHuluと話をつけることで人気テレビ番組のネット配信を上手く自らのビジネスに取り込むことができるかもしれないということです。

ここでは例えば、ケーブル・オペレーターがHuluと協力して有料の「プレミアム版Hulu」をケーブルの加入者に提供するような動きが今後見られるかもしれないといったことが書かれています*1。Huluではドラマの最新シリーズは直近の5話程度しか配信していないけれど、ケーブルテレビと連携したプレミアム版では全話視聴できるようにして、その代わりにユーザーがサービスの利用料として支払う料金の一部をHuluが受け取るようにする、というようなイメージです。

無料のネット配信が広まる中でケーブルテレビを解約する人が増えているという話もある中で(こちらのエントリーを参照)、無料サービスに付加価値をつけることで有料制にして、しかも会員の囲い込みも図ることができるというこのアイデアは、もし実現すればケーブル・オペレーターにとってはありがたい話になるでしょう。でも、仮にHuluが一部でも有料制を取り入れてしまうと、恐らくは「うちのコンテンツは有料じゃないと提供しない」という権利者が(特に人気作品について)少なからず出てきて、無料サービスの範囲が狭まってしまうでしょう。そしてHuluもそのリスクを十分に承知しているはずですから、この話は簡単には実現しないのではないかと思います。


iTunesで番組の有料販売を行っているAppleがダメージを受ける。
Business Weekの記事では、今回の合意がAppleiTunesビジネスに与える影響が分析されています。そして、Huluのようなサイトの人気が高まるにつれて、iTunesのように有料で動画コンテンツのレンタルや販売を行うサイトの競争力は弱まっていくだろうというアナリストの見方を紹介しています。

業界内部者の話として書かれている「HuluがiPhoneiPod TouchでHuluのコンテンツをストリーミングできるようなアプリケーションの開発を進めている」という計画が実現すれば、確かにiTunesへの打撃になるかもしれません。でも、Huluで提供されているコンテンツはエピソード数が限られており、一方iTunesで販売されているコンテンツは放送済みの最新シーズンすべてのエピソード+過去数シーズンの全エピソードというのが一般的です。同じドラマがHuluとiTunes両方にあったとしても、エピソードの数が全然違うのです。だから、HuluがABCのコンテンツを入手したところで、それがたちまちiTunesのビジネスに大きな影響を与えることはないでしょう。Appleにとって脅威となるのは、上に書いたような「Huluとケーブル業界が連携してより多くのエピソードを有料で提供する、しかもそれらが簡単にテレビ画面で視聴できるようになる」という枠組みが実現されるようなことがあった場合でしょう。

このように、DisneyがHuluに参加することのインパクトについてはさまざまな意見が提示されています。個人的には、「今回の合意は無料動画ネット配信ビジネスにおけるHuluのポジションを一層強化することには大きな意味を持っているけれど、iTunesなどの有料配信やケーブル業界に及ぼす影響はそれほど強くないだろう」と感じているのですが、変化の速い業界ですから、また何か驚くような動きが出てくるのかもしれません。

*1:僕の知る限り、今の段階で実際にそんな話が持ち上がっているということはありません。