DisneyがHuluに参加

ひと月ほど前に、「DisneyがHuluに出資してコンテンツを提供する交渉が進んでいる」という話を書きましたが(こちら)、その交渉がまとまったようです。Disneyが、傘下のABC Enterprisesを通じてHuluに参加することになりました。HuluのCEO Jason Kilarによる喜びのコメントとプレス・リリースの全文はこちら、またCNET Japanに載った日本語の記事はこちらから読むことができます。

今回の合意を受けてDisney陣営から提供されるのは、傘下であるABCのヒットドラマ(新作・旧作ともに含む)や家族層を主なターゲットにしたケーブル局ABC Familyの番組など。また作品名は明らかにされていませんが、過去のディズニー映画も対象になっているようです*1

扱いが注目されていたスポーツ専門局ESPNのコンテンツが対象に含まれていなかったのは少し残念ですが、とはいえこれでHuluはアメリカの4大地上波テレビネットワークのうち3社のトップ・コンテンツを提供することになりました。アメリカ国内限定ですが、Huluで例えばどんな番組がネット視聴できるのかを見てましょう*2
NBC
 ・Heroes
 ・ER(最近最終回を迎えましたが)
 ・The Office
<FOX>
・Prison Break
・24
・Terminator: The Sarah Conner Chronicles
・The Simpsons
<ABC> (今回の合意を受けて加わるコンテンツ)
 ・Lost
 ・Grey’s Anatomy
 ・Desperate Housewives
 ・Ugly Betty
 ・Private Practice

こうしたラインナップを見るだけでもABCの番組が加わることがHuluにとってどれほど強力なプッシュになるのかは容易に想像できますが、Paid Contentの記事は、今回の合意にはHuluにとってもうひとつ大きなアドバンテージとなるポイントが含まれていると報じています。それは、Disneyを仲間に引き込むために、NBCとNews Corp(FOXの親会社)があと1年足らずで当初の契約期間が切れるHuluへの独占配信許諾を2年間延長することに同意したようだということです。

Huluが持つNBCやFOXのコンテンツの独占配信権について詳しくは以前のエントリーを参照していただきたいのですが、これが更新されるかどうかは、「ネット上でプレミアム動画コンテンツを配信するプラットフォーム」としてのHuluの立場を根本的に揺り動かす可能性のある問題でした。Paid Contentの記事にあるとおりNBCとNews CorpがHuluが持つ独占配信権をあと2年間延長することを認めたのであれば、今回の合意はHuluにとって、ABCの番組をラインナップに加えられることと併せて二重に喜ばしい出来事ではないかと思います。

またユーザーにとっても、これまでABC.com以外の場所でのネット配信がほとんど行われてこなかったABCの番組がHuluで視聴できる(=Huluと配信契約を結んでいるYahooやComcastなどのサイトでも見られるし、ブログやFacebookなどへの貼り付けも簡単にできるようになる)のは嬉しいことです。ABCはアメリカのテレビ局の中でiTunesでの番組販売や自社ウェブサイトでの番組ネット配信に最初に取り組んだ先駆者でしたが、自前主義の強さのおかげで最近はネット上での存在感が少し薄れていました。でもHuluとの合意により、再びトップランナーの仲間入りを果たしたと言えるでしょう。

一方、早くからHuluへの参加が取り沙汰されていながら傘下のTV.comがHuluへのアクセスを遮断されてしまうなど最近は関係が冷却しているのがCBSです。今回の合意を受けてアメリカの4大TVネットワークの中で唯一Huluに参加しないテレビ局になってしまいました。この会社は、CBS Audience Networkと呼ばれる独自のネットワークを通じてMSNやYahoo、Joostなどにコンテンツを提供しており、DisneyがHuluに参加することになったという報道を受けても独自路線を歩んでいく方針を表明しています。Paid Contentの記事に載っていたCBSの声明を引用します。

CBSはこれまでずっと、ネット上の視聴者に我々の番組を提供する際の配信や売上、収益を私たちがコントロールすることができるよう、オープンで非独占的なコンテンツのパートナーシップを結んできた。我々は、コンテンツが持つ魅力とそれが作り出すコミュニティーの熱意によってオンラインの視聴者を増やし、またこれまでと同様の方針に基づいて配信パートナーを増やしていく。わが社は、すべてのメディアにおいてコンテンツに対する自らの権利をコントロールすることが、多様なプラットフォームでビジネスを展開する上でコンテンツの価値を保つことにつながると信じている。

要するに、Huluに対して独占的なネット配信の権利を与えてしまうことに警戒心を持っているということなのでしょう。でも一方で、同じ記事には、CBSのコンテンツも提供できるよう話し合いをしていきたいというHuluのCEO Kilarの言葉も紹介されています。今後はHuluとCBSとの関係に注目が集まりそうです。

*1:テレビ番組をネット配信する企業というイメージの強いHuluですが、旧作ばかりとはいえ20th Cenruty FOXやUniversal(Huluの親会社であるNews CorpとNBC Universalの映画部門)、Lionsgateなどの作品を中心に100本以上の映画も無料配信しています

*2:基本的にアメリカのテレビ局やHuluが行う最新番組のネット配信は直近の5エピソードを提供するのが基本なので、現シーズンに放送されたすべてのエピソードが視聴できたり旧シーズンの回が見られる訳ではありません。