ソニーがネット動画配信サービスの「branco」を打ち切りへ

ソニーは今年の3月に日本でパソコン向けの無料ネット動画配信サービス「branco(ブランコ)」を立ち上げましたが、2009年1月30日でサービスを終了することになったそうです。

brancoを運営しているソニーマーケティングによる告知はこちらです。そこでは次のような説明がされています。

brancoは、無料でお楽しみいただける映像サービスとしてスタートしましたが、会員数が当初目標から大きく下回ることとなり、事業のあり方や将来性について見直しを進めてきました。同時に当社を取り巻く経営環境の悪化も顕在化し、事業継続は難しいとの判断にいたりました。

このニュースを伝える日経新聞の記事によると、ブランコは「来春までに100万人の会員獲得を目指したが、現時点で約15万人と伸び悩」んでいて、それがサービス終了を決断する大きな要因となったようです。加えて、昨今の景気低迷の影響で広告出稿の状況が一段と厳しさを増したということもあるのでしょう。

動画のネット配信がなかなか普及しない日本で数少ない本格サービスだっただけに、開始から1年も持たずに打ち切りというのはとても残念です。でも、英米などで一般的な「CMつき無料」モデルを採用していること、そして世界最大級のコンテンツ・ホルダーであるソニーが自ら手がけるサービスであることといった大きな強みを持ってしてもカバーしきれない事業モデルの弱点がbrancoにはあったのかなという気もします。

まず、「来春までに100万人の会員獲得」という目標。brancoは、ネットに接続できれば誰でも視聴できるというオープンなサービスではなく、対象がNTT東西の光回線に加入している人に限られていました。いくらこの分野でNTTが東西合わせて7割以上のシェアを持つ巨人だといっても、加入者数は現在1000万件程度です(CNET Japanの関連記事)。いくら無料だといっても加入者10件に1人という割合でbrancoの会員になってもらおうという目標は勝算のあるものだったのでしょうか。そもそも、収入を広告に頼るのであれば視聴者の裾野は可能な限り広くするのが原則です*1。NTTの光回線加入者のみを対象にするという利用者の制限は、brancoが広告メディアとして成長するポテンシャルに自ら枠をはめてしまったのではないかという気がします。

また、オン・デマンド配信ではなくテレビ放送のようにbranco側で番組を編成して流すというスタイルも、ネット上では「見たいものを、見たい時に見る」というのが当たり前だということを考えるとユーザーからあまり受け入れられなかったのではないでしょうか。

利用会社(NTT)を基にした囲い込みやネット上での番組編成といった手法は、brancoがユニキャストではなくIPマルチキャスト方式を採用したことに伴う制約です。配信コストを抑えるという点では非常に効果が高かったのでしょうが、それは裏を返せば企業側の論理を優先してユーザーの自由を制限したサービスだったということになります。このブログでHuluの例などを挙げながら幾度も言及しているように、動画のネット配信で大切なのは、「どれほど多くの自由度(=コントロール)をユーザーに与えることができるのか」という点です。brancoは、その点を大きく読み違えていたのかもしれません。

ネット上でコンテンツ・ビジネスに取り組む際には、ユーザーの行動を厳しく制限することによって利益を最大化していたアナログ時代の考え方から脱却しなければなりません。その点を理解しなければ、いかに無料モデルを採用しようとも、強力なコンテンツ・ホルダーがバックについていたとしても、動画のネット配信をビジネスとして成功させるのは厳しいでしょう。

*1:もちろん、雑誌のようにターゲットが絞られているから広告媒体としての価値が生まれるというケースもありますが