Huluのサービス開始1周年

2007年10月29日にHuluがサービスを開始してから1年が経ちました*1。TechCrunchにその話題を扱った記事が出ています(英語の元記事はこちら、日本語訳はこちら)。「立ち上がる前はHuluに対して散々な低評価をしていたけれど、実際は予想をはるかに超えるサービスになっていた」ということを認める内容のものです。アメリカのメディア・エンターテインメント業界で働く他の多くの人も、度合いは異なれ同様の感想を持っているのではないでしょうか。

上の記事によると、今年9月にHuluがストリーミングで流したビデオは前月比プラス42%の1億4200万回に達していたというそうです(元データはNielsen)。すさまじい成長ペースですが、同じく上記記事の「現在までに7万2千件のレビュー、1万4千件のフォーラムへの投稿が行われた。Huluによると、先月は5万件のメールによる感想を受け取ったそうだ。」という箇所にも目を惹かれました。この夏まで僕がアメリカにいた時には、Huluのコミュニティ機能はまだあまり発達していないなという感想を持っていました。コメントや星付の評価などがついているビデオは少なく、YoutubeAmazonのように一般ユーザーのレビューがコンテンツや商品の回転をドライブさせていくような段階にはまだまだ至っていないというのが僕の印象だったのです。でも、数万件のレビューや投稿が行われているということは、その点についても強化されつつあるということを意味しています。

確かに、たとえばHulu上にあるNBCのドラマ「Heroes」のページでは、提供されているほとんどのフル・エピソード(番組の丸ごと提供)やミニ・クリップにユーザーからの5段階評価がされていますし、この記事を書いている段階で約150件のDiscussionへの投稿と約50件のUser Reviewsへの書き込みがされています。人気ドラマに対する反応としてこれらの数をどう評価するのかは意見の分かれるところかもしれませんが、僕がアメリカでHuluを使っていた頃と比べるとずっと多くなっています。星をつけるだけの評価に留まらずコメントを書き込むユーザーが増えているというのは、それだけの熱意と忠誠心のあるユーザーが増えているということです。それはHuluにとって大きな武器となるのではないでしょうか。

同じくHuluのサービス開始1周年を扱った記事がUSA Todayに出ているのですが、その中でHuluのCEO Jason Kilarの興味深い言葉が紹介されています。
ちょっと意訳になりますが引用します。

「ネット上のサービスは、共有(sharing)とコミュニティ(community)がすべてだ。そして決定的に重要なのは、HuluにとってはHuluのサイトだけが全てではないということだ。」とKilarは言う。「どの日をみても、Huluのサイトに来るよりもはるかに多くの人々が他のウェブサイトを通じてHuluのコンテンツを視聴している。*2

Huluが提供するコンテンツは、Hulu自身のウェブサイトよりも配信パートナー(Yahoo, Myspace, MSNなど)やHuluのビデオが貼り付けられている個人のウェブサイト・ブログなどを通じて視聴されることの方がはるかに多いということです。これはちょっと驚きですが、見方を変えれば、Huluはそこまで徹底的に「追いかけ型」のサービス(関連エントリー)を行っていると言えます。「リーチを最大化することが自らの収益を最大化することにつながる。そのためには、コンテンツが視聴される場所は自らのサイト上であっても他のどこかであっても構わない」という極めて合理的な割り切りが感じられます。

USA Todayの記事にはもう1か所面白い部分がありました。以前のエントリーでKilarがHuluのサービスは細かいところにまでこだわりを持っていると言っていたことを書きましたが、そのこだわりの強さを示す別のエピソードです。

これまでのHuluの成功を、KilarはHuluのサービスはシンプルで使いやすく、音声と映像の質がYoutubeよりもシャープで、顧客サービスに徹底して集中しているからだと分析する。「我々は、番組を検索した時の結果表示が時系列で出てくるようにする*3といったことを確実にするために何時間も費やしている」と彼は言う。「そういうことが重なって、本当に大きな違いを生むことになるのだ(We Think things like that make a really big difference.)」

コンテンツのラインナップがネット配信の成否を決める決定的な要素だということは言うまでもありませんが、こうしたHuluの事例を見ると、そのサービスをいかに使いやすくするのか、そしていかにしてユーザーを望むコンテンツのところまで素早く、ストレスを感じさせずに導くことができるのかという部分も決しておろそかにできない重要な部分なのだという気がします。

*1:β版が公開された日です。本格運用の開始は今年の3月。

*2:原文は以下の通り:"If you want to be of the Net, it's all about sharing and the community, and critically important that it's not just about Hulu," Kilar says. "We know that far more people will go to more other websites on any given day than come to Hulu."

*3:放送日の新しいものが上に来るようにするということ