DSに見る任天堂の「融合」戦略

Venture Beatというサイトに、アメリ任天堂の社長を務めるReggie Fils-Aimeのインタビューが出ていました。その中の一節がとても印象に残ったので紹介します。DSiへの機能追加について、任天堂Appleの後を追っているのかという質問をされた後の答えです。

私たちが競争するフィールドは、(Appleがどうのということではなく)より大きなエンターテインメント空間だ。そこにはビデオゲームだけではなく、音楽や映画、そしてテレビも含まれている。人は、消費者として1日に1440分の時間を持っている。その中で、働いたり、食事したり、眠ったり、学校に行ったりする。それらを除いた全ての時間が、我々の競争フィールドになる。私たちは、いつもこのように考えてきた。

デジタル化による「融合」(Convergence)の特質と、その中でメディア・エンターテインメント企業が追求すべき戦略を、見事に言い表した言葉だと思います。

以前にもいちど触れましたが、「融合」が進むということは、音楽やテレビゲーム、映画、テレビ番組といったコンテンツがプラットフォーム間の垣根を越えて行き交うようになり、それと同時にひとつのプラットフォーム上でさまざまな種別のコンテンツが利用できるようになるということです。そして、DSの発展の過程を見ると、任天堂はこの両面から「融合」を積極的に推し進めている会社のように思えます。

まず、DSはポータブルなテレビゲーム機として大ヒットしていることはもちろんですが、付属のアンテナを発売してテレビ(ワンセグ)を視聴できるようにしたり、本やマンガをネット経由でダウンロードして読むことができるDSVisionというサービスが始まったりと、「ゲーム以外のコンテンツ」の取り込みも図ってきました。DSVisionではパソコン経由で専用のSDカードにコンテンツをダウンロードし、それをDSに入れて*1利用するという仕組みですが、最近はアニメの「ポケモン」や「トランスフォーマー」のような映像作品も扱うようになってきていますDSiで液晶が多少大きくなったり(3.0インチ→3.25インチ)、ゲームボーイアドバンス用のスロットを廃止して代わりにSDカード用のスロットを設けたりという変更が加えられた背景には、こうした映像を含むゲーム以外のコンテンツの利用を増やしたいという狙いがあったのではないかと受け取れるのではないでしょうか。

また、DSiではカメラ(30万画素)や音楽プレイヤー、そしてネット閲覧のためのブラウザーといった機能も新たに加わるそうです(CNET Japanの記事)。これにより、DSはさらに多くの種別のコンテンツを取り込むことになります。

ゲームジャーナリストの新清士さんは、30万画素カメラのようなDSiの低スペックな機能追加を指して、任天堂はあえて携帯電話などのほかのデバイスと競争しない戦略を取っていると指摘しています(新清士のゲームスクランブル)。だとすれば、任天堂はDSに搭載されるカメラや音楽プレイヤーを携帯やiPodなどと競い合わせるつもりはなく、それらの機能をゲームとして楽しませることを主眼にしているのではないでしょうか。つまり、音楽や写真といった新たな種別のコンテンツをハードとしてのDSに取り込みつつ、それらのコンテンツがゲームと融合するようなソフトを開発しようという作戦です。

これは、ハードメーカーでありソフトメーカーでもある任天堂だからこそ可能な作戦なのでしょう。この会社の洞察力(「融合」がもたらす変化をいち早く見極め、それに流されるのではなく自らその流れを先導しようとする戦略)、そしてその戦略をきちんとした商品やサービスとして世に出していく実行力には、恐るべきものがあると感じます。

*1:SDカードを接続するための専用アダプタを使います