アメリカの大統領選とネット配信

Huluが初めて生放送のストリーミングを行う*1という記事がPaidcontentに出ていました。対象は、オバマとマケインによるアメリカ大統領選の候補者討論会です。専用サイトには、ニュース専門のケーブルチャンネルMSNBC*2で放送された関連のスピーチや解説のクリップも載せられています。ぱっと見た感じではなかなか充実していそうなサイトです。

最近のアメリカ大統領選は、インターネットと密接な関係を持っています。例えば、アメリカの覇権の行く末を独自の視点から分析する「国際ニュース解説」をネット上で行っている田中宇さんは、2000年(前々回)の大統領選の際に「アメリカの政治を変えるインターネット」という記事を書いています。その中では、インターネット産業などで働く人々をキリスト教会や労働組合に属さない新たな勢力「新中道」と名づけ、この新中道からの支持をいかにして獲得してゆくかが今後のアメリカの政治で重要になると説かれています*3。興味深いことに、この選挙の際にネット関連の新中道勢力を上手く取り込んだのはマケインだったんだそうです。このときマケインは共和党から立候補をしましたが、党の代表を決める予備選挙でブッシュに敗れました。負けはしたけれど、ブッシュに比べれは遙かに知名度の低かったマケインが善戦した一因はネット勢力を味方につけたからだというのが著者の分析です。ネットを使いこなす人々にアピールすることの重要さを政治家が認識した選挙だった、と言えるかもしれません。

前回(2004)年の選挙では、民主党のハワード・ディーンがウェブサイトやブログを活用して草の根の支援基盤を拡大し、台風の目となりました。選挙資金や遊説の際のボランティアを集めたりする上で、そして「イラク戦争反対」という彼のメッセージを広める上で、ネットが大きな役割を果たしたのです(IT PROの記事)。

そして今回の大統領選とインターネットの関わりで最も注目されているのは動画のネット配信だと言えます。例えばYoutubeはCNNと提携して、CNNで放送される大統領候補者討論会での質問事項をYoutube上で募集しました(Internet Watchの記事)。討論会の映像がYoutubeに投稿されていますが、画面の右下にはCNNとYoutubeのロゴが並んで見えます。また、Youtubeは今年3月から「Youchoose'08」という大統領選関連のページを立ち上げ、候補者ごとのチャンネルを用意してそこに各陣営がビデオを投稿できるようにしています。そして今回、Huluも大統領選関連の動画ネット配信に参入したという訳です。

ペイリンとバイデンによる両党の副大統領候補討論会が全米で6990万人の視聴者を獲得したと報じられるように、4年にいちどの大統領選は一種の「キラー・コンテンツ」です。視聴者のニーズがあるのなら、(そして権利関係の問題がないのなら)テレビでもネットでも流してやろうというアメリカのメディアのしたたかな戦略だとも取れますが、こうした取り組みがネット配信の間口を広げ視聴者を増やしているのも事実でしょう。4年後の2012年に行われる大統領選挙では、さまざまな関連映像をネットで配信することが当たり前になっているのではないか、という気がします。

<追記 10/14>
ネット配信と直接の関係はあまりありませんが、Infocom Newsletterの海外情報ページに、今回の大統領選におけるオバマとマケインのICT政策の違いを比較する記事が出ています(「バラク・オバマ民主党大統領候補のテクノロジー政策」)。マケインの政策課題としてトップに挙げられているのが「イノベーションに対する投資促進」であるのに対して、オバマは「インターネットのオープン性を保護すること」、つまりネットワークの中立性を保つことを第一に挙げているなんていうのは、興味深いところです。

<追記10/16>
CNET Japanの記事によると、アメリカでXbox360用のレーシング・ゲーム「Burnout Paradise」内にオバマ陣営が選挙広告を出しているそうです。大統領選までの期間限定で、オハイオ、フロリダ、アイオワコロラドインディアナなど激戦区10州向けにバーチャル看板広告が出ているんだとか。若者層を支持基盤にしているオバマらしい戦術だと感じられますが、オンラインゲームの広告というのも期間や場所など、随分ターゲットを絞ることができるんですね。

*1:新作の番組がHuluにアップされるのは放送翌日なので、これまではライブ・ストリーミングというのはありませんでした

*2:名前の通り、マイクロソフトNBCによって設立されたチャンネルです

*3:記事では、ネット関連の勢力と中南米やアジアからの移民というタイプの異なる2種類の新中道が取り上げられています