Modern Feedという会社

The Modern Feedという会社があります。アメリカで今年の春にサービスを始めた会社です。とても面白い仕組みで成り立っている会社なのでぜひ紹介したいなと常々思っていたのですが、ずるずるとこんな時期になってしまいました。今日はこの会社のことを取り上げることにします。

Modern Feedが行っているのは、アメリカの地上波テレビ(ABC, CBSなど)やケーブルチャンネル、新聞社、大学、NGOなどがウェブ上で合法的に公開しているさまざまな動画コンテンツにアクセスできるワンストップのプラットフォームを作り上げることです*1。Huluのようにコンテンツ・ホルダーから番組を提供してもらって自社サイトに載せるのではなく、それぞれの会社や組織、団体などが自分たちのウェブサイトで公開しているコンテンツを見つけ出してそこへのリンクを貼っていくというのがModernfeedのスタイルです。Modern Feedのサイトに来れば、ユーザーはウェブ上でどんなコンテンツが(合法的に)公開されているのかを調べ、そして面白そうなコンテンツにアクセスすることができます*2。つまり、Modern Feedはネット上で「勝手に動画プラットフォームを作り上げる」サービスだと言えます。彼らのサイトのトップページ下の方にある「Networks」というボタンをクリックしてさらに「Click here to the full lists」を指定すれば、いかに多種多様のソースをカバーしているのかがわかります。

ウェブサイトの会社説明では、こんなことが書かれています。

Modern Feedの使命は、ウェブ上にある高品質のプレミアム・コンテンツ*3を見つける最も簡単な方法を作り出すことです。番組は、(ABCの人気ドラマ)「Lost」から「ノーベル賞の受賞講演」まであらゆる領域に及びます。我々がカバーするのはコンピュータだけではありません。まずはModern FeedをiPhoneで利用できるようにし、他のガジェットへの対応も進めているところです。

Modern Feedの特徴は、ウェブ上の「合法的なコンテンツ」を「人の手で見つけ出し」、「勝手にリンクを貼る」ことで、他のどの会社にも真似できない「巨大なコンテンツ集積のプラットフォーム」を作り上げてしまったことです。例えばこのブログで幾度も取り上げているHuluは、NBCとNews Corpによって設立され、親会社以外にもSonyやWarner, Comcastなど数十社に及ぶコンテンツ・プロバイダーから番組の提供を受けているContent Aggregatorですが、ABCやCBSの番組は提供されていません。そういう意味でHuluはコンテンツのワンストップ・プラットフォームとは呼べないのです。一方、イギリスではBBC(の子会社)とITV, Channel4という「強者連合」が共同で各社の番組を配信するプラットフォームKangarooを立ち上げようとしていますが、これに対しては公正取引委員会からの調査が入っているため準備が遅れています(関連エントリー)。このことは、あまりに独占的な力を持つプレイヤーが現れるのは競争の阻害という点から問題になり得るということを示しています。そういう隙間を上手くついて出てきたのが、独立した*4ベンチャー企業であるModern Feedです。

他の会社のコンテンツに勝手にリンクして大丈夫なの?という疑問も当然ありますが、立ち上げから半年程度たってもサービスが継続していることを見ると、少なくとも今のところは大きな問題にはなっていないようです。これには、いくつかの事情が考えられます。まずひとつは、言うまでもなく提供しているのが合法的なコンテンツに限られているということ。そして次に、最近アメリカのテレビ局などの間で「ネット配信から収益を上げるためにはコンテンツのリーチを最大化してCMで稼ぐのが最善の方法だ」という認識が出来つつあることが考えられます*5。HuluやCBSは、自社サイトだけでなくAOLやYahooなど外部の提携サイトからでも自社のコンテンツが視聴できるようにしていますし、特にHuluはユーザーがコンテンツを自分のブログに貼り付けたり友人とシェアすることを積極的に認めています(関連エントリー)。「自社のコンテンツは自社のウェブサイトでのみ見られるべきである」という考え方からの脱却が起き始めているのです。そういう状況の中では、他社のサイトであれ個人のブログであれ、コンテンツが視聴されるということが第一の優先事項となります。外部からのリンクにいちいち目くじらを立てるのは、自らにとってもマイナスの結果をもたらすことにつながるのです。実際、Huluのサイトでも、提携関係にないABCやCBSの番組へのリンクが貼られています。例えば、HuluのサイトでABCのドラマ「Lost」を検索するとこういうページが現れます。そこからクリップを指定すれば、(アメリカ国内からのアクセスであれば)そのままABCのサイトに飛んで作品を視聴できるようになっています。Modern Feedは同じことをより大規模に行っているだけです。Huluがやっていて大丈夫であれば自分たちにもできるだろう、ということになります。

また、3つ目の要因は「コンテンツの集積から(少なくとも今のところは)Modern Feedが利益を得ていない」という点にあると思います。ウェブサイトに広告出稿に関する問い合わせ先は出ていますが、現時点(10/6現在)ではModern Feedのサイトには何も広告が出ていません。その点について、CEOのJ.D. Heilprinにインタビューをした今年4月のPC Magazineの記事では次のように触れられています。

今のところ、Modern Feedのサイトには広告が出ておらず、クリーンですっきりしたインターフェイスになっている。Heilprinは、いずれModern FeedからHuluやその他のサイトに送り出すユーザーの数が増えていけば広告収入をシェアしてもらえるようになるのではないかと期待している。しかし、今のところはModern Feedはどのネットワークからもコンテンツのライセンスを受けているわけではないし、コンテンツを使うことに対してお金を払ってもいない。Modern Feedは自身のサイト上に広告を載せたり、ユーザーを外部のコンテンツ・サイトに導く前に広告を見せたりすることもできるけれど、今のところはそうした計画はない。一方、AmazoniTunesとの間ではアフィリエイトの関係を結んでいて、「今すぐ購入」のリンクをすぐに追加するつもりだ、とHeilprinは言った。

自分たちのコンテンツへのリンクを通じて不当な利益を得ようとしている会社があればテレビ局なども黙ってはいないでしょうが、Modern Feedの場合は今のところはそんなことも行っていないので抗議をする理由もない、というところでしょうか。でも、同時にこれは現時点でModern Feedが明確な収益源を持たないということでもあります。アフィリエイトだけで十分な運転資金が得られるとは考えられません。ユーザーの数を増やし、少しでも早く広告収入の一部を配分してもらえるようにしないとこの会社はいずれ経営が立ち行かなくなるでしょう。そして、この収益化という点は、Modern Feedのもうひとつの特徴である「人手をかけたコンテンツ集積」というスタイルを考えると一層の重要性を持っているように感じられます。

Modern Feedには30人近いFeederと呼ばれるスタッフがいます。彼らの役割を、CNETの記事から引用します。

Modern Feedを注目に値するサービスとしているのは、プロが制作したコンテンツをウェブ上で見るときに感じる苛立ちを緩和してくれることだ。例えば、いくつかの異なるサイトで同じコンテンツを提供している時には、"feeders"と呼ばれる人間のキュレーターがウェブ上を探索し、画質やストリーミングのスピード、使いやすさなどの点で最も優れていると思われるところを選んで登録してくれる。またModern Feedでは、リンク先でビデオを見るときにいくつかのステップを経なければいけない場合には、どのようにすればよいのかを教えてくれる。この情報は動画を視聴するというボタンをクリックするたびに現れるので、いきなり外部サイトに投げ出されることがない。本当に使いやすい。

このように、Modern Feedの「親切設計」は人力に負うところがかなりあります。日本からだと実際に視聴できる動画がかなり限られているのであまり有り難さが実感できないのですが、ウェブ上に散らばる膨大な動画を探してくるだけでなく、リンクが切れているところはそれを除外したり、複数の候補からベストのリンク先を選んだり、個々のサイトによって異なる仕様に合わせて動画スタートまでの操作法を解説したり、といったことはたしかにコンピュータだけでは対応できないのでしょう。雑多なソースからコンテンツを集めてきて「勝手に」リンクを貼るというスタイルのサービスでは、このような作業は操作性を高めるのに欠かせないのだと思います。でも同時に、それはかなりの人件費がかかることも意味しています。それを賄っていくためには、きちんとした収益源を確立することが欠かせないのです。

例えばYoutubeのように、収益性は全くないのに膨大な数のユーザーを集めることができたために16億ドルもの金額でGoogleに買収されたという例も確かにあります。でも、AlexaでModern Feedのトラフィックを調べた限りでは、春からずっと利用者数はほぼ同じ水準に留まっています。ユーザーが増えなければ、広告収入の分配をHuluなどに求めることもできないでしょうし、高額で身売りをすることもできません。非常に面白いサービスなだけにぜひ成長していって欲しいのですが、これからどんな方向に向かっていくのでしょうか。

*1:合法的なコンテンツ限定なので、日本からでは視聴できないものがたくさんあります

*2:それらのコンテンツはModern Feedのサイト上にあるわけではありません。外部サイトにあるコンテンツへのアクセスを提供するのがModern Feedのサービスです

*3:プロが制作したコンテンツ、といった意です

*4:ウェブサイトなどを見る限り、テレビ局や映画スタジオなどから支援を受けている形跡はありません

*5:iTunesのような有料配信モデルの場合にはこの考えは当てはまりません