中韓で進むネット配信への取り組み

Variety Asiaに、中国韓国における映像コンテンツのネット配信への取り組みについての記事が出ていました。中国では、圧倒的な国内シェアを持つ検索エンジン百度(Baidu)がUiTVという国内最大のインターネットTVのプラットフォームの株式8.3%と1500万ドルをもらうのと引き換えに、Baiduの動画ダウンロード・サイトmovie.baidu.comの運営をUiTVが担当するという話し合いがまとまったそうです(より詳しい解説はこちらを参照)。

Baiduは著作権違反の疑いで訴訟も起こされたMP3検索などで成長してきた会社ですが、今回の合意で扱うのは、著作権処理がきちんと行われた動画コンテンツのみ。これにより、中国で最大の合法的なテレビや映画のダウンロード・データベースが出来上がるそうです。ユーザーには無料で配信し、広告を入れることによって収益を上げることになっています。UiTVのサービスが中国でどれほどの人気を集めているのかはわかりませんが、強者連合の成立と言えるでしょう。

また、韓国では国内最大の携帯電話事業者であるSK Telecomが、昨年買収した子会社のHanarotelecomをSK Broadbandと改名して本格的なIPTVサービスに乗り出すということです。こちらは既に国内企業にディズニーやソニーといった企業を加えた270ものコンテンツ・プロバイダーとの契約を取り付けていて、VODのコンテンツを購入するために今年の年末までに8400万ドル(約88億円)、2012年までに5億ドル(525億円)以上の投資をする予定だそうです。コンテンツを制作するのではなく配信権を得るために費やすお金としては、かなりの規模です。こちらはブロードバンド接続やVoIPなどとともに提供されるパッケージのひとつですから有料サービスになるはずですが、国内での配信件を得るためだけにこんな大金を投資してちゃんと回収できるのかな、と余計な心配をしまうほどの額です。でも、上の記事によると韓国ではSK BroadbandのほかにもKTやLG Dacomといった会社がソウル近郊で IPTVの試験サービスをしていて、「韓国でのIPTVはこの数ヶ月で大きく成長しそう」だそうですから、その分コンテンツの獲得競争が激しくなっているのかもしれません。

こうしたケースが示しているのは、欧米にとどまらず東アジアでもインターネットTVやIPTVによる映像コンテンツ配信が合法的なビジネスとして立ち上がりつつあるということです。こうしたアジアのメディア事情というのもとても興味深いところですが、語学の壁があるのでなかなか突っ込んだところまで見ることができません。もし韓国や中華圏のネット配信事情を取り上げたサイト、ブログなどをご存知の方がいらっしゃったら、是非教えてください。

ともあれ、これらの記事を見て、映像のネット配信という点では中国や韓国の方が日本よりも進んでいるなと改めて感じました。日本の映像配信の環境は、欧米とも東アジアの近隣諸国とも切り離されているようです。携帯電話の世界でも日本では独自のビジネス環境が作り出されていて「ガラパゴス」と称されていますが、これは世界と切り離されてはいても日本の方が先を行く「進んだガラパゴス」です。ところが映像配信の分野では、技術の発展が新たなビジネスに結びつかない日本ががずるずると後退して「遅れたガラパゴス」化しつつあります。それは携帯業界の置かれた立場よりももっとまずいんじゃないか、という気がします。

<追記 10/1>
BaiduとUiTVの件ですが、South China Morning Postの記事では「Baiduの経営陣がオンラインビデオの市場にあまり期待していないからUiTVに事業を売却した」という趣旨のことが書かれています。今回の契約対象となったmovie.baidu.comの他にBaiduはvideo.baidu.comという動画検索サービスを持っています。こちらはyoukuなど、海賊版が出回る動画共有サイトの作品も検索できるそうなので、トラフィックを集めるにはそちらが手元にあればよいということなのかもしれません。いずれにしても、アジアのメディアは自分自身が全体像だとか置かれた状況をほとんど理解していないので、記事を読んでもその文脈をきちんとつかむのが難しいです。