BBCが目指す番組情報のワンストップ・プラットフォーム

BBCは、自社の全ての番組の情報を網羅するBBC Programmesというページの開発を進めています(現在はベータ版として公開されています)、ここは非常にすっきりとして見やすいサイトの中に、驚くほど充実した番組関連情報(メタデータ)が詰め込まれています。

Quick Overviewという欄には、このサイトについての説明が書かれています。

BBCのウェブサイトは私たちが放送する番組についての情報を提供しています。でも、テレビとラジオを通じて毎日1000本もの番組を放送しているので、これまでウェブサイトの情報は必ずしも包括的でなかったり、またいずれ消えてしまうこともありました。例えば、もし貴方が2週間ほど前に見た、あるいは聴いた番組についての情報を探している時、それは必ずしもいつもウェブサイトにあるとは限りませんでした。また、仮にあったとしても見つけづらいこともあったのです。

bbc.co.uk/programmesは、BBCが放送する全ての番組がウェブ上で永続的な(註:一時的なものでなくずっと残るということ)、そして見つけやすい存在として残ることを目指す新しいプロジェクトです。 このサイトは2007年10月に始まり、テストを重ねながら機能やデータ、ユーザーの使用感を改善していくつもりです。当面は提供される番組情報は今放送されている番組のものに限られます。番組がウェブ上で視聴できるようになったときは、ビデオを該当番組のページ上に載せたり、iPlayerへのリンクを貼るつもりです。(以下、省力)

ポイントは「全ての番組について」「ずっと残る」情報を「見つけやすい」形で提供するということです。

実際にサイトを見て適当にクリックするのが一番わかりやすいと思うのですが、トップページでは「アルファベット順」「番組カテゴリー(ドラマ、ニュース、音楽etc)」「チャンネルごとのスケジュール(いわゆる番組表)」のいずれかから番組を探すことができます(もちろん、番組名が入力して直接検索することもできます)。アルファベット順、もしくはカテゴリー別でどこかをクリックすると、今度はそれに該当する番組名の一覧が表示されます。この画面は(再放送を含み)現在放送中、あるいは今後放送予定が入っている番組のみが表示されるのですが、画面上部にある「All」というボタンをクリックすると、過去の番組も表示されるようになります。例えば、僕がロンドンにいた頃に放送されていた『Doctor Who』という番組を探すとします。「D」で始まる番組を表示する最初の画面にはないのですが、「All」を押した画面にはきちんと表示されます(大分と下までスクロールしないといけませんが)。

もうひとつ、今度はBBCの看板報道番組『Panorama』の情報を見てみましょう。こんな画面が出てきます。ここでは、その番組が最後に放送されたのはいつか(「Last On」)、そして今後放送予定(もしくは再放送予定)がある番組についてはいつ放送されるのか(「Coming Up」)がひと目でわかるようになっています。もちろん、個別のエピソードをクリックした画面にもそうした情報が含まれています。さらに感心してしまうのは、この番組情報のウェブサイトがBBCのiPlayer(ウェブ上でBBCの番組を流すプラットフォーム)としっかり連携している点です。iPlayer上で視聴できる番組、エピソードについてはきちんとフラグが立てられているし、サイト上でiPlayerを起動してそのままストリーミング視聴できるようになっています(残念ながらイギリス国外からはアクセスできませんが)。

これはすごいものを作り上げたな・・・と思いました。「全ての番組について」「ずっと残る」メタデータを「見つけやすい」形で提供するというのは、文面を読めば当たり前のように見えるかもしれません。でも、少なくとも日本の放送局でそのような形で番組情報を提供しているところはありません。一番情報が充実していると思えるNHKでさえ、番組情報が網羅的に見られるのはオンラインの番組表を確認するか(見づらくはありませんが、見やすいとも言えません。また、再放送予定などはわかりません)、50音順の番組一覧(現在放送中の番組のみしか掲載されていません)ぐらいしかないのです。

例えば、僕はNHKがこの夏に放送していた『監査法人』というドラマが見たいのですが、放送はもう終わっていますので50音順の番組一覧には載っていません。NHKオンラインにある検索ボックスで『監査法人』と入力し、一番上に表示された番組のウェブサイトに行くことにしました。すると、主人公の写真や「6月14日スタート」「放送終了に寄せて・・・プロデューサーからのご挨拶」「DVDの発売決定」といった表示のあるトップページに飛びます。でも、そこに再放送についての情報はありません。FAQのページをクリックすると、3つめに「再放送はありますか」という質問がありました。それに対しては、「再放送情報は NHKドラマホームページ でご案内しています」という答えがあり、ドラマのページへのリンクが貼られています。リンクをたどり、ドラマのトップページにあるメニューからさらに「過去のドラマ&再放送」をクリックすると、『篤姫』『純情きらり』などの再放送予定とともに、ようやく『監査法人』が10月にBSで再放送される予定だと知ることができました。

おわかりでしょうか。情報はどこかに「ある」のですが、その情報とそれを探すユーザーを結ぶルートが曲がりくねっていてきちんと整備されていないのです。NHKに文句が言いたいわけではありません。多くのテレビやラジオのチャンネルを持ち、巨大なウェブサイトを作り上げ、また再放送の要望が来るような名作を多く制作するような局であればある程、自社の番組をどこでどのように放送するのかという決定、そしてそこで決められた情報をどのようにして視聴者に伝えるのかという伝達がどんどん煩雑になっていくのです(1チャンネルしか持っていない民放でさえ似たり寄ったりの状況なのですが・・・)。テレビやラジオの番組に関するメタデータは膨大なものです。再放送の予定も、一旦決まったものが2度、3度と変更されることは珍しくありません。そうした多大な情報をきちんと吸い上げ、整理して、見つけやすい形で提供するためには余程しっかりとした仕組みを作り上げることが必要になるはずです。

それはメディア企業にとってはさまざまな困難を乗り越えなければ実現できない一大事なのかもしれませんが、BBCのケースはそれでも実現できるということを示しています。「ウェブの本質は巨大なデータベースである」といった言葉をどこかで読んだことがありますが、これは正にBBCが目指している方向性を指しているのではないかと思えます。BBC Programmeを、情報とサービスの提供者としてのBBCと受益者である視聴者がともに使えるデータベースにしようという発想です。言い換えれば、自社の番組情報(メタデータ)についてのワンストップ・プラットフォームをウェブ上に作り上げようという試みです。この発想は、デジタル化が進むこれからの時代、放送局が自らの映像資産を最大限に活かしていくためには欠かせないものなのではないかと感じます。